■ 古舘村の「101部隊」■ 第1話 地図から消えた島
大東亜戦争が始まる、少し前のことだった。
軍都・広島。
そして、軍港・呉。
その二つからほど近い海に、周囲わずか四キロほどの小さな島があった。
その島は、決して特別な場所ではない。
米も野菜もよく育ち、秋には松茸が採れ、海に出ればサザエやアワビが獲れる。
人々は畑を耕し、漁に出て、慎ましく——だが不自由のない暮らしを営んでいた。
ごく普通の、豊かな島だった。
だが、ある日。
島民全員に、突然の立ち退き命令が下る。
理由は、告げられない。
説明もない。
補償の詳細も示されなかった。
命令は、ただ一つ。
「島を、出ろ。」
数か月後、島は完全な無人島となり、外部との往来は一切遮断された。
そして——ある日を境に、地図からその島の名前が消えた。
◆ なぜ、この島だったのか
陸軍がこの島を選んだ理由は、感情ではなく——計算だった。
万が一、毒ガスが漏れても被害を最小限に抑えられる。
外部に秘密が漏れにくい。
中国大陸に近く、輸送が容易。
空襲を受けにくい立地。
1923年、関東大震災以降。
軍は知っていた。
化学兵器は、敵よりも先に自国を滅ぼしかねない——という事実を。
だからこそ、人のいない島が必要だった。
1929年(昭和四年)。
住民が去ったその島に、陸軍の毒ガス兵器施設が建設される。
音もなく。
記録にも残らず。
誰にも知られぬまま。
こうして島は、人々の記憶からも、地図からも、静かに消えていった。
だが——
島が消えたのではない。
そこに作られた**“もの”**が、後に数え切れない命と運命を狂わせることになる。
そして、その存在こそが——
やがて「101」と呼ばれることになる。




