第18話 JNL本社へ──“向井”という名前 ――犯行は「人」ではなく、「構造」に隠れていた――
丸の内。
JNL本社ビル。
この事件の実務を指揮してきた五十嵐警部は、報告のため8階・役員フロアを訪れていた。
ここへ来るのは、これで三度目になる。
エレベーターを降りると、専用受付。
美しい受付嬢が型通りに深く頭を下げた。
目的の役員室へ向かう途中、ちょうどドアが開き、中から出てきた男と鉢合わせする。
「……兵頭先輩じゃないですか?」
五十嵐が声を上げた。
「おう。五十嵐じゃないか。お前、なんでこんなところにいる?」
兵頭は、かつて静岡県警で共に働いた先輩刑事だった。
「先輩こそ、どうしてJNLに?」
「定年で上がってな。今はここの総務部だ。静岡時代、支店長だった山岡さんと縁があってよ」
短い立ち話のあと、五十嵐は労務担当役員・山岡の部屋へ入った。
◆ 「内部犯行ではない」──だが
「例の“過激な整備員”の件だが……どうなった?」
山岡は窓の外を見たまま切り出した。
「一か月、二十四時間体制で洗いましたが——全員、シロです」
山岡は小さく息を吐いた。
「つまり、“内部犯行ではない”と?」
五十嵐は、すぐには答えなかった。
「少なくとも、“社内の過激な整備担当者”ではありません。ただ……」
言葉を選ぶ。
「機体構造に精通し、天井に上がって作業できる人間、という条件を考えると——“内部の人間”という線は、まだ捨て切れません」
山岡は、黙って頷いた。
「公安委員長も、同じ見解だったよ。過激派組織と直接つながる社員はいない、と」
二つのルートから、同じ“空振り”の報告。
それでも五十嵐は、確信していた。
犯人は、必ずどこかにいる。
そして——
この事件の本質は、まだ誰にも見えていない。
それは、一人の犯行ではないのかもしれない。
もっと静かに、
もっと巧妙に組み上げられた「構造」。
五十嵐は、その入り口に立っていることだけを感じていた。
▶ 次回予告
“向井”は、実行者なのか。
それとも、巨大な仕組みの中の歯車に過ぎないのか。
捜査はついに、「個人」から「構造」へ踏み込む。




