第16話 「内部犯行」説 ――疑いは、JNL社の内側へ――
羽田空港を一望する空港警察署5階。
警視庁と空港警察の合同捜査本部には、事件から二か月が経過した今も、重たい停滞感が漂っていた。
青酸ガスのボンベを、機体天井の空気送風管——エア・ダクトに設置する。
それには機体構造への深い知識と、確実に作業できる専門技術が不可欠だった。
自然と、捜査の視線は一点に集まっていった。
――JNL社内部の人間ではないか。
◆ 分裂する九つの組合
当時のJNL社は、「合理化」の名のもとに激しい労使対立の渦中にあった。
職場単位で存在していた単一組合を崩し、会社主導の“御用組合”を作る分裂工作。
運航乗務員だけでも、
・機長組合
・運航乗務員組合
・航空機関士組合
・航空士組合
さらに、
・整備員組合
・スト権を行使する客室乗務員組合
・御用客室組合
・地上職御用組合
・少数の過激派組合
社内には、九つもの組合が乱立していた。
中でも会社と最も激しく対立していたのが、整備部門だった。
分裂工作に反発し、先鋭化している——そんな内部報告も捜査本部に届いていた。
結論は、ほぼ一致していた。
「内部犯行なら、整備担当者が最有力だ」
◆ 二十三名のリスト
ある日。
JNL社の労務担当役員から、極秘で一枚のリストが渡された。
そこに記されていたのは、社内で「危険人物」と目されている整備担当者二十三名の名前。
捜査本部に、重い沈黙が落ちた。
ここから捜査は、一気に動き出す。
捜査員五十名を総動員し、家庭環境、勤務態度、交友関係——すべてを洗い出した。
やがて——六名。
さらに——二名。
捜査本部の空気が張り詰める。
ついに核心へ近づいた——
誰もが、そう思った。
だが。
その確信は、あまりにも早すぎた。
▶ 次回予告
絞り込まれた「二人」。
だが、その先に待っていたのは——
捜査本部の想定を覆す、決定的な事実だった。




