第15話 官房長官の定型句 ――国家が語らなくなった理由――
官邸。
毎日、同じ時間に行われる記者会見。
事件に関する質問が出るたび、官房長官は必ず同じ言葉を繰り返した。
「鋭意、JNL特別便事故調査団において、調査が進められております」
それ以上でもない。
それ以下でもない。
今日もまた、同じ言葉だった。
◆ 沈黙という選択
追加発表はない。
進捗説明もない。
質問は、はぐらかされる。
だが——
週刊誌が書き立てた「死亡した要人たちの黒い噂」について問われると、官房長官はわずかに声色を変えた。
「いずれの方々も、政財界において立派な業績を残された方々です」
「人道的な観点からも、故人の噂話を今さら書き立てるのはいかがなものか」
それは報道への牽制であり、同時に——国家としての“線引き”でもあった。
◆ 不気味な静けさ
こうして、国家は語らなくなった。
世間は飽き、
報道は離れ、
捜査は表に出ない。
だが——
捜査本部の一部は、確信していた。
この静けさは、終わりではない。
始まりでもない。
ただ、何かが水面下で確実に動いている。
そして——
沈黙が続くときほど、真実は深く沈んでいく。
▶ 次回予告
沈黙の中で、斎藤警視正が一枚の図を机に広げる。
三人の証言。
機内配置。
時間軸。
そして——
誰も見逃していた“たった一つのズレ”が浮かび上がる。




