第13話 犯人の手がかりゼロ ――空白の天井裏――
事件発生から、1か月。
捜査は続いていた。
だが——
決定的な手がかりは、何ひとつ見つかっていなかった。
機体の天井部。
空気供給ダクトに装着されていた有毒ガス容器は、市販品ではなく完全な特注品であることが判明した。
しかし——
容器からは指紋も手形も、一切検出されない。
取り付け周辺にも、異物、繊維、皮膚片といった犯人につながる痕跡は完全にゼロだった。
天井裏へのすべての侵入口。
そこからも、証拠らしきものは何一つ出てこない。
「せめて、足跡くらいは残っているはずだ」
捜査員の誰もが、そう考えた。
だが——
天井裏の床面は、見事なまでに清掃されていた。
泥だらけの靴でもない限り、足跡の採取は不可能な状態だった。
さらに——
事件前日、アンカレッジ空港からバンクーバー空港まで当該機を“ドライ・フェリー(乗客ゼロでの空輸)”した運航乗務員3名にも、徹底した事情聴取が行われた。
しかし、そこからも不審な点はひとつも見つからない。
一か月。
それでも——
犯人像は、影も形も見えてこなかった。
まるで、最初から「何もなかった場所」で起きた事件のように。
だが。
捜査本部の一部では、この“何もなさ”こそが最大の違和感として受け止められていた。
これほどの事件で、痕跡がゼロというのは、あまりにも異常だった。
誰かが——
最初から、すべてを消し去る前提で動いていた。
そう考えなければ、説明がつかなかった。
そしてもう一つ。
この事件には、
決定的に欠けているものがあった。
**「偶然の痕跡」**である。
犯罪には、必ず予定外の乱れが生じる。
消し切れない何かが残る。
だが、この機体には——
それすら存在しなかった。
まるで犯人が、捜査そのものを予測していたかのように。
次回予告
薄れていく世間の関心。
怒りは冷め、事件は「過去」へ押しやられていく。
だが——
本当に忘れ去られたとき、事件は再び動き出す。




