第12話 第一次調査報告 ――「青酸ガスによる大量殺害」
JNL整備工場・格納庫での検視。
T大医学部法医学教室による司法解剖。
さらに——
ボーイング社から来日した主任調査員ジョン・クレーターら4名の技術陣と、JNL整備スタッフによる機体JA8123の徹底調査。
それらすべての結果を照合した上で——
国家は、ついに「結論」を公表することになる。
◆ 羽田・大会議室での第一次発表
事故から2日後、午後5時。
羽田空港公団の大会議室で、「JNL特別便事故調査団」による第一次調査報告が行われた。
会場前には国内外の報道陣が長蛇の列を作る。
だが——
・各社2名のみ入室可
・質疑応答は一切なし
という異例の厳戒態勢が敷かれていた。
壇上中央に立つのは、調査団団長・谷崎国家公安委員長。
谷崎は無言で立ち上がり、文書に視線を落とすと、淡々と読み上げた。
「JNL特別機・JN1007便、機番JN8123号機は、10月6日午後5時55分、羽田空港C滑走路に正常な状態で着陸しました」
会場は静まり返っている。
「しかし——」
谷崎の声が低く響く。
「操縦室および客室へ送られる新鮮空気の供給経路である機体中央部天井のエアーダクト1箇所に、特殊容器が取り付けられていた形跡を確認しました」
「当該容器は約500立方インチ。即効性の青酸系有毒ガスが注入されていたと見られます」
「容器は午後5時55分前後に作動し、機内206箇所の空気口より一斉放出」
「その結果——乗客・乗員226名のうち223名が、午後5時58分から6時20分の間に死亡したと推定されます」
まるで、判決文が読み上げられているかのようだった。
◆ 生存者が助かった理由
谷崎は資料をめくる。
「生存者3名のうち、防衛庁技官・山田氏、櫻老人ホーム職員・宇野清二氏は、犯行時刻、救急用酸素マスクを使用し純酸素を吸入していたため、生命を取り留めたと判断されます」
「なごみ老人ホーム専属看護婦・奥野静江氏については、ビニールカーテンにより一定程度周囲から隔離されていたため、影響が軽微だったと推測されます」
会場には、ペンの走る音だけが響いた。
◆ 「組織犯罪」の可能性
谷崎は顔を上げる。
「本機は、多数の政府・財界要人が搭乗する政府委託・特別機であります」
「当調査団は、国家転覆を意図した組織犯罪の可能性も排除せず、国際警察機構および関係国公安機関へ正式に捜査協力を要請いたしました」
最後に、こう締めくくった。
「国民の皆様にも、情報提供など、ぜひご協力をお願い申し上げます」
深々と頭を下げ、会見は唐突に終わった。
質疑応答はない。
追及する時間も、与えられなかった。
◆ その夜、五十嵐の確信
その夜の全国ニュース。
警視庁の五十嵐警部は、缶ビールを握ったまま画面を見つめていた。
谷崎の言葉が終わると、五十嵐は静かに息を吐いた。
「……やはり、犯人像も、動機も、まだ何一つ掴めていない」
昨夜、斎藤警視正が口にした言葉がよみがえる。
――「このヤマは、長くなるぞ」
五十嵐は確信していた。
これは事故ではない。
単なるテロでもない。
精密に計画された、史上最悪の大量殺人事件だ。
そして——
まだ、“本当の捜査”は始まってすらいない。
▶ 次回予告
犯人の手がかり、ゼロ。
世間の関心は、静かに薄れていく。
だが——
事件は、終わっていない。




