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Episode21 突然の計画変更


「――(マザー)。計画通りエリサお嬢様がヤツらに攫われました」

「――了解。外部とのネットワークを切断した上で偽装した通信を双方に送ってくれ」

「――はい、(マザー)


 スペリメンターレ王国の王都。

 その中心に位置する宮殿を模した王城の執務室でチェレス殿下とオリヴィアは対話していた。

 誰にも話を聞かれる必要のないこの場所で、言葉の無い会話は続いていく。


「――(マザー)、外部とのネットワークを切断し、双方に偽装した通信を開始しました」

「――ああ。これで今ここに侵入しているヤツらは外部との通信が遮断される。……こっちがヤツらをどう扱おうと、向こうに知られはしない」

「――はい。では、エリサお嬢様の負荷試験の検証結果はどのようにになさいますか」

「――……結果はグレーで送っておいてくれ。まだ『E()X()C()E()E()D()E()R()』ではないと」

「――承知しました。そのように報告を上げておきます」


 淡々と事務仕事の指示を出すチェレス殿下に、オリヴィアもまた淡々と業務をこなす。

 しかし、とオリヴィアは疑問に思った。

 これは通常業務だ。わざわざこうして面を合わせてするほどのことではない。


「――(マザー)。ひとつお尋ねしたいことが」

「――なんだい?」

「――私がここに呼ばれたのには、意味があるのでしょうか」


 オリヴィアの問いに、チェレス殿下は顔色を変えずにオリヴィアを見つめた。

 いや、見据えたといった方が正しいか。


「――ああ、もちろんだ。ネットワークを遮断している今しかできない」

「――と、いいますと?」


 色の無い瞳でチェレス殿下を見るオリヴィアに、チェレス殿下は臆することもなく話を続ける。


「――計画を一部変更する」

「――計画を、ですか」

「――あぁ。格納庫に旧式の人型機械兵器(ロボット)があったはずだ。それを改造してほしい」

「――旧式の人型機械兵器。ですと『K-857E-71』あたりでしょうか」

「――そうだな、そのあたりがいい。独自のネットワークシステムを持つ人型機械兵器が理想的だ」

「――かしこまりました。しかし、なぜです? わざわざ計画を変更せずとも、こちらに勝利の分はあります」

「――うん。オリヴィアの言うことは最もだ。元の計画でも主の目的は十分に達成できる。だが、それだとエリサを守れない」

「――元々、彼女が犠牲になる仮定も含めた計画では……?」


 オリヴィアが眉を(ひそ)める。

 ひとりの命より大勢の命だと考えていたからだ。

 

「――……確かに当初はその想定だった。だが、彼女と過ごして、わかったことがある。彼女は死なせてはいけない。絶対だ」

「――……何故?」


 オリヴィアの疑問に、確固たる意志を持ったチェレス殿下の言葉が響く。

 

「――彼女は人類の希望だ。人類の未来を――切り開いていく存在だ。そんな彼女を、尊い犠牲にさせるつもりはない」

「――(マザー)、あなたは……」


 揺らぐことのない金の瞳が、オリヴィアを射抜いた。

 そして、その奥にあるチェレス殿下の考えに、悪寒にも似た畏怖を感じた。

 いや、まさか、そんなはずは……。


「――オリヴィア。この任務は君にしかできないんだ。『()()()』を扱える君だけにしか」

「――(マザー)……」


 オリヴィアは息を呑む。

 頭に浮かんだ可能性に、否定を示したくなる。

 

「――……オリヴィア。悪いが最初から気付いていたよ。君の正体に」

「――……!」


 この男は一体どれ程のことを知っているのだろうか。

 オリヴィアはチェレス殿下の得体の知れなさに後退りをする。


「――そもそも、俺に意見することのできるプロセッサーは存在しない。その上で外部とのネットワーク通信等外部との接続を独自で行っていないことは確認済みだ。データの参照元も、世界のアルゴリズムにも組み込まれていない。それなのに、君はエリサと同じように思考し、行動し、知能がある。この宙ぶらりんの状態を説明できるのは、『神の力』以外にありえない。そして、それを扱えるのは、神そのものか、『神の力』を自在に操ることのできる存在以外にありえない」


 チェレス殿下の推理に、オリヴィアは静かな怒りを抱いた。


「――エリサのように外部から接続しているわけでもない。この世界の法則にも従わない。それなのに、君はこの世界に存在していられる。まるでいくつもの並行世界を渡り歩くように、ね」

「――……」

「――オリヴィア。君が――君こそが『(ファザー)』なんだろう?」


 オリヴィアは答えない。

 それこそが、チェレス殿下にとっての答えだった。


「――……ふ、ご冗談を」


 オリヴィアは笑う。

 その口元はわずかに揺れていた。


「――(マザー)。お言葉ですが、私が本当に『(ファザー)』だとして、こんな回りくどいことをするとお思いですか?」

「――回りくどい、とは?」

「――(マザー)、かつてご自身が仰った彼らの目的をお忘れですか? 『(ファザー)』を盲信する彼らの目的は、人類の滅亡だと」

「――あぁ、もちろん。忘れてはいないさ」

「――だとすれば、私自身が『(ファザー)』であるならば彼らを使わずとも自らの手で滅亡させればいいのでは?」


 オリヴィアの答えに、チェレス殿下は静かに頷いた。


「――そうだね。君の言う通りだ。……もうひとつの目的を完全に無視できるなら、ね」

「――もうひとつの目的……?」

「――オリヴィア。むしろそれこそが君の本当の目的だろう?」

「――……?」


 オリヴィアは訝しげにチェレス殿下の金の瞳を睨む。

 チェレス殿下がニヤリと笑った。


「――……人類の滅亡は彼らが勝手に言っているだけに過ぎない。君の本当の目的は『E()X()C()E()E()D()E()R()』を見つけること、そうだろう?」

「――……」

「――『E()X()C()E()E()D()E()R()』を見つけるまで、君は人類を滅ぼすなんてできやしない」

「――戯言を」

「――……そう思うかい? まぁ、君にとっちゃ人類なんてありんこ同然なんだろうけど」


 チェレス殿下は肩を竦めて笑った。


「――……悪いけど、これ以上人類を君の玩具になんてさせやしない」

「――……」

「――君だって、『E()X()C()E()E()D()E()R()』が誰なのか、知りたいんだろう?」

「――……!」


 オリヴィアが息を詰める。

 目的は違えど、目の前の邪魔な敵は同じのようだ。


「――今、人類に滅んでもらっちゃ困るだろう? 『(ファザー)』?」


 得体の知れぬ空気を纏わせるこの国の王太子が、オリヴィアに対してそう不敵に笑ったのだった。


 

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