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序章 突然のプロポーズ


「い、……いま、なんと……?」


 引き()った声が喉から絞り出された。

 頭が理解を拒み、自身が置かれている状況に混乱してこめかみを冷や汗が伝う。


「……ああ、伝わらなかったかな? 僕はたった今、この舞踏会で貴方(あなた)という花に恋をした、と言ったんだ」


 意味がわからない。

 改めて聞いても、理解不能。


 私の名はエリサ・ザッフェラーノ。

 ザッフェラーノ伯爵家の長女――つまり、伯爵令嬢である。

 そんな身分の私に目の前の男は堂々と告白――もといプロポーズをしてきたのだ。


 エリサはちらりと周囲に目線を()わせた。

 他の令嬢たちのざわつきと、驚きと(いぶか)しげな視線がエリサに突き刺さる。

 エリサは痛すぎる令嬢たちの視線から目を()らし、代わりにエリサにプロポーズしてきた目の前の男を見る。


 シミひとつない真っ白な礼服に緋色(ひいろ)のマント。節々に施された金細工のアクセサリーはそのどれもが華美で豪奢(ごうしゃ)な代物だ。

 闇に溶けるかのような青みがかった艶やかな黒髪は後ろでひとつに束ねられ、束ねきれなかった前髪は横に流している。

 それなりに整っていると思える端正な顔立ち、切れ長の目は闇に溶けそうな髪色とは対照的な、夜空の星々を彩る金の瞳をしていた。

 

 そんな人物を前に、エリサは頭を抱えた。

 どこからどう見ても、エリサの前で(ひざまず)いている男は王族だ。

 伯爵家と王族――釣り合うはずもない身分差にエリサは尻込みをした。

 この国の権限を握る王族にプロポーズをされて受け入れない令嬢などいないだろう。

 だがエリサは違った。面識のない男にいきなり好きだのなんだの言われて喜ぶほど、エリサの頭はお花畑ではない。


「――お言葉ですが……、誰かと思い違いをしておいででは……?」


 エリサは認めたくなかった。人違いだと、そう男に伝える。


「まさか! 貴方(あなた)だけですよ、一目で恋に落ちたのは」


 歯の浮くような台詞に、エリサは虫唾(むしず)が走った。

 なんとかして逃げられないだろうか……。

 エリサはどうにも苦手なこの男を睨み、奥歯を()()める。


 この男はチェレスティーノ・スペットロ・ダ・スペリメンターレ――このスペリメンターレ王国の第一王太子だ――。


 

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