第33話「確固たる愛を持って」
告白されたと聞いた時、やっぱりモテちゃうんだと落胆した。
しかも、女の子に。
すごく嫌で、考えただけで脳が溶けてしまいそうなくらいの拒絶反応を感情は示すのに、理性が抑圧して言葉を封じ込めた。
自由を奪われる苦しさを、誰より知っているから。
愛してやまない恋人に、私みたいな思いはしてほしくない。させたくない。
気ままに、何にも縛られず生きている彼女だからこそ惹かれ、虜になったのに、束縛なんてしたら良さを壊してしまいそうで。魅力を削いでしまいそうで。
「どこか行くの?」
「うん!友達と、釣り!」
「そっか……気を付けてね」
「詩乃ちゃんも来る?」
「ううん。私は、遠慮しとく」
何日も泊まっていたら、こういう日もある。
あたかも理解ある彼女という顔で送り出して、夕夏ちゃんがいなくなった夕夏ちゃんの部屋で落ち込む。
あの女の子も、来たりするのかな。
もしかしたら男の子も、密かに恋心を抱いてたりするのかもしれない。……もしそうだったら、嫌だな。
でも言えない。大切だから。
「夕夏〜、店手伝っ……て。あれ」
少しして、夕夏ちゃんママが部屋にやってきた。
彼女が遊びに出かけたことを伝えると、知らなかったらしく「まじかー…」と眉を垂らして頭の後ろを掻いていた。
「あの……よければ、私、手伝いましょうか…?」
「え!いいの?助かる」
「も、もちろんです」
「ついてきて」
暇で鬱屈としていても仕方ないし、忙しい方が私も助かる、と後へ続いてお店に出た。
季節の果物や野菜が並ぶ店先で、すでに検品の終わった商品の品出しと、廃棄物の確認をしていくらしい。夕夏ちゃんパパは、用があるらしく不在だった。
黙々と、指示された作業をこなしていく。
「……ほんと、よく働くね。君は」
感心したように、褒められた。
「あ……いつも、迷惑をかけてるので」
連日のお泊まりや、朝昼晩のご飯。それから洗い物や洗濯物まで。人ひとり分増えるのは大変だろうに、文句も言わずに。
実の母がよく「詩乃のために頑張っていて大変だ」とぼやいていたから、きっと同じだけの負担をかけちゃってるだろうと、申し訳なくて。
「全然。迷惑なんかないよ」
「え…」
「むしろさ、娘ができたみたいで嬉しんだ。……ほら、夕夏は男みたいだから」
冗談ぽく、くしゃりと笑った表情が、夕夏ちゃんそっくりで。
「息子がふたりいたようなもんだから、詩乃ちゃんみたいな女の子っぽい子が増えてくれて嬉しいよ」
紡がれる言葉にも、血の繋がりを感じる。
「ふふ。私も、嬉しいです」
「やだね〜。照れるじゃんか。この話やめやめ」
手を振って空気を散らした動作に従って、さっきより心を軽くして作業に集中できた。
一所懸命にやってたら、気が付けば時計の針は午後を回り、昼食にそうめんを茹でてもらえたから、秋夜くんと三人で食卓を囲んだ。
そして午後は、
「ごめん、店番頼んでいい?」
「はい!お任せください」
「すぐ戻ってくるから。よろしくね」
八百屋の店番として、レジのところで座って待機。
お客さんが来るまですることもないから、スマホでなんとなく、パズルゲームでもして過ごした。
「すみません」
「あっ。はい、いらっしゃいま…」
そこへ、現れた。
「夕夏ちゃん、いますか」
この間、夜に会っていた女の子。
ブロックしたって、言ってたのに。まだ、関わりあったのかな?
「えっ……と。夕夏ちゃんは、お出かけしてて」
「……もしかして、彼女さんですか?」
あ。違う。
この子、私に会いに来たんだ。
おそらく確信を持って聞いてきたであろう相手を警戒しながらも、はっきり「はい」と頷いた。隠すことでもないし、隠したくもなかったから。
案の定、女の子は静かな怒りを瞳の奥に忍ばせて、上から下まで値踏みするように見てくる。
「色目、使ったんですか?」
失礼なことを、無遠慮に投げられる。
「私、夕夏ちゃんのこと大好きなんです」
何も返せずにいると、彼女は気にせず一方的な話を続けた。
「譲って、くれませんか」
初対面の相手に、優しくする義理はない。
いったいどういう思いで言ってきたのかまでは不明だけど、確実に「別れろ」と伝えていることは理解できて、脳の奥と体の芯がスッと冷めた。
「……別に、いいよ」
予想外の返事だったんだろう、彼女は目を見開いて息を止めた。
「奪えるものなら、ぜひ。奪ってみて」
生憎、私には確固たる愛がある。手放す気は毛頭ないものの、誰かの行動を制限するつもりもない。
「っ……ほんとに、いいんですか」
「うん。気にせず、好きにしてほしいな」
「余裕ぶってられるのも、今のうちですよ」
「そうかもしれないね」
挑発には応じず、万が一の未来を想像して悲しんだ。夕夏ちゃん、意外と流されやすいからなぁ。
だけど、心配はしてない。
信じられるだけの愛を、常に受け取っているから。
それに、一時的に他の女のところへ行ったって、結局は帰ってくると高を括っている。最後に戻ってくるのなら、寄り道くらい余裕で許せちゃうもんね。
「フラレないといいね」
「っ……バカみたい!強がって!どうなっても知らないんだから」
悔しそうに、女の子は去っていった。負け惜しみを聞けただけで、溜飲を下げる。
念のため、帰宅した夕夏ちゃんに起きたことをありのまま話したら、
「あいつ……なんか、友達にも言い広めてんだわ」
「なにを?」
「今日、お前付き合ってるやついんだべって、色んなやつに聞かれた。まったくよぉ……困んだよな、そういうことされっと」
夕夏ちゃんは夕夏ちゃんで嫌なことがあったみたいで、ぶつくされていた。……怒ると訛り濃くなるの、かわいい。
「ま、でも。気にしなくていいよ」
「んー……うん」
「私が愛してるのは、詩乃ちゃんだけだから。安心しな」
「ん、へへ。うん」
「……あんまかわいいと、したくなっちゃうな」
「する?」
「や、音が……」
心残りは、思う存分に体で愛を確かめられないことくらいで。
どこかいいところがないかなぁ、とふたり揃って渇望しながら検索する夜が、何日も続いた。




