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君と熟れた夏  作者: 小坂あと
前編

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第31話「不穏な影」








 若者の性欲を、ナメちゃいけない。


「ホテル……入れなかったね」

「くそぅ。ネットだと年確されないって書いてあったんだけどなぁ」


 午後、合流してさっそくホテルへ直行したものの、年齢確認をされて逃げてきた私達は、ぶつくさと文句にも近い会話を重ねていた。


「私が制服だからかな?」


 原因のひとつではありそうな格好を憂いて、胸元に手を置いた詩乃ちゃんの、細いのにむっちり感のある体型につい目が行く。


 確かに。エロすぎて出禁なのかも。


 とか、アホ全開で項垂れた。


 通学は特に服装の指定がなく、何を着てもいいならどうせならと制服を選んだことを、詩乃ちゃんは心底後悔しているようだった。


「あーあ。こんなことなら私服で来ればよかった」

「や、でも。次もあるし……それだけが目的じゃ、ないし」


 強がり半分と気遣い半分で言葉を連ねる。


「何が目的だったの?」

「……カラオケ」

「あ〜!いいね。行こ?」

「うん」


 手を引いて歩き出した愛しさについていって、密かに楽しみだったカラオケ店へ入店。


 私も詩乃ちゃんも、そこまで高い頻度で訪れない場所だから、受付ではちょっと緊張した。しかし無事、ドリンクバーのコップをゲットする。


 飲み物を注いで、書いてある番号の部屋を探す。


「うわ〜、なんか。すごい久しぶりに来た」

「こんなだっけ」


 思ったより狭い空間で、ふたり。


「夕夏ちゃん…」

「え、あ、し、詩乃ちゃん?」

「ここなら、誰も来ないよ……だから」


 マイクなんてそっちのけで、愛を謳い始めた。


 隣に座る詩乃ちゃんの肩を抱き寄せて、貪るようなキスをする。相手も私の肩に手を置いて、密着度を上げてきた。


「っはー……やばい」

「ん、なぁに」

「めっちゃ、したい」


 キモいかもと思うのに、鼻息の荒さを止められない。


「我慢しないで、しようよ」

「や、でも…」

「大丈夫。ここ、監視カメラもないし」


 ちゃっかりものな彼女はしっかりリスク回避のため確認済で、いつの間にと驚きつつ、それなら……と流された結果。


「んっ……ふ、ふ。ぁ」


 がっつり、してしまった。


 さすがに服を全部脱いでソファに倒れ込むのは、店員さんが入ってきた時のことを考えたら怖くて無理で、だから服は着たまま、座ったまま。


 キスをしながら、いつ触っても大好きな柔らかさを包んだり、相手の内ももに手を挟まれてみたり。


「いつもと……ちがうとこ、あたる」

「い、痛くない?」

「もどかしい…」


 当たりどころが悪いのか、詩乃ちゃんは途中少し眉をひそめて、集中するため目を閉じていた。


 手はずっと私の服を引っ張っていて、いちいち心臓を持ってかれそうになる。電気を消してるとはいえ、曇りガラスを隔てた廊下の光は入り込んできてるから、反応全てがよく見て取れた。


 そういえば、こんなにも明るいところで顔を見たのは初めてだ。


 いつも、そんなかわいい表情してたんだ。


 下唇を浅く噛み、何かに耐えるみたいな、必死さ。


「す、き。夕夏ちゃん」

「っわ、私も。好きだよ」

「んん……もっと。もっと、いっぱい」


 多分、身体的な刺激じゃ難しいから、精神的な満足感に浸ろうとしているんだろう。


 そうと分かれば協力するのみで、そうでなくても愛の囁きは口から勝手に零れ落ちる。だって、本当に好きだから。愛してるから。


 結局、三時間も取っていた時間の大半は、恋人らしいことをするために消費された。


「うぅー……汗できもちわるい」

「帰ったら、お風呂入ろ」

「……一緒に?」

「そ、それは…」


 チャンスかも。


 照れて断ろうとしたものの、よくよく考えればうちの中で唯一、邪魔が入らない空間であることに気付く。


「……アリかも」

「やった」


 さっそく、電車内では悶々としつつも内心は期待しまくりで帰り、帰宅後は風呂場へ直行した。だから、家族がどこで何をしているか分からない。知らない。関係ない。


 家の中で唯一ちゃんとある鍵もしっかりかけて。


 お互い恥ずかしいから、これまた服は脱がず。


「っ……ふ、う。う…」

「ごめん。声だけ……ごめんね」

「うんっ……がまん、する」


 せっかくだから、普段できないことを、と。


 立ったまま、後ろから大胆にも支え持った。こうしてみると、重さがすごい。


 自分の体を支えるため前屈みになって壁に手を付けた詩乃ちゃんは、鼻の奥で息を止めて声を殺していた。……かわいい。


 線の細い背中とくびれ、腰の曲線が綺麗で、つい見惚れる。


 いつも、こんなスタイルが良くてかわいい子と……っていうか、冷静に考えたら詩乃ちゃんと付き合えてるのやばい。初恋が実って、本当に良かった。


 離れてたことなんて、もうへっちゃら。


 だって、今が幸せならそれで。


「詩乃ちゃん……愛してるよ」

「うん、私も。すき」


 やましいことをした証拠は全て水で流して、湯張りした浴槽で全身を休ませる。


「なんか……一年分は取り返したべ。今日で」

「ふふ。まだまだ足りないよ〜」

「……詩乃ちゃんってさ、案外めちゃくちゃ性欲強い?」

「きらい?」

「大好き」


 ふたりで呑気に唇を合わせてる間。


『会いたいです、先輩』

『無視しないで』

『これから、会いに行きますね』


 脱衣所に置かれたスマホは、バイブ音を鳴らし続けていた。


 







 

 

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