第20話「他にも楽しみは」
初めてが野外でも、私は全然よかったのに。
「や。さすがに……汚しちゃうから」
私自身と浴衣の心配をした夕夏ちゃんによって盛り上がっていたムードは壊され、帰る頃にはすっかり燃え盛っていた炎も鎮火していた。
家に入る前、念のため母親に怪しまれないように、と襟元なんかを整えてくれたけど、
「……あんたら、なにしてたん」
洞察力の鋭い夕夏ちゃんママの前では、無駄な抵抗だったみたい。
「まさか、他所でしてないでしょうね」
「っす、するか!」
「あのねー……外はやめときな。蚊も蜂もいるし、人間もいるし。見られたら困るのお前らだかんね」
「だから、してない!しない!ほっとけババア」
「ごめんね〜、詩乃ちゃん。うちの子、野蛮で」
「っだー、もう!話しかけんなクソババア!」
照れ隠しの怒鳴り声には笑い声が返り、ズカズカ廊下を進んでいった夕夏ちゃんの後を追う。
そのまま部屋に行くと思いきや、案内されたのは脱衣所だった。
「汗、かいただろうから……先、入っていいよ」
「あ……ありが、とう」
紳士的な対応には素直に感謝しつつ、服を脱ぐ前にそそくさ出て行ってしまったことには落胆する。……そんな、逃げなくても。
夕夏ちゃんは恥ずかしがり屋さんだから、仕方ないって思うけど。
たまに、寂しくなる時もある。
彼女の方から求めてくれるのが理想で、どちらかと言わなくても私は受け身。与えられる側に立って翻弄されたい。
好きすぎて気を引きたいから頑張ってるだけで、乙女心はいつだって複雑。
「あ。詩乃ちゃん。お風呂上がったんなら、水分取りな。スイカ切ってあるから」
「ありがとうございます…」
体を清めて、お水を貰おうと向かったリビングで、談笑を中断してまで夕夏ちゃんママが声をかけてくれた。
入れ替わりでお風呂へ入った夕夏ちゃんを待つため、隅っこの椅子に座って、用意されたスイカをちまちまかじった。お祭りで食べすぎたから、正直ちょっとお腹いっぱい。
「……詩乃ちゃんさ」
「は、はい」
「あんまり、大胆な真似はやめた方がいいよ」
軽薄さのない、真剣な声にびっくりして確認したら、テレビに顔を向けたまま。私の方は見てなかった。
だから、表情は分からない。読めない。
「村の連中はさ、噂好きだから」
けど、多分。
「傷付くのはいつだって、若者だからさ。……古臭いんだ、あいつらは」
親心なんだろうな、とは。
言葉以外の部分で感じ取って、感謝を伝えた。
ここまで寛容なのがむしろ珍しいくらいで、だからこそ夕夏ちゃんみたいな素敵な女の子が誕生し、良さを殺さず伸び伸び育ったんだろう。
そう考えたらなんだか、尊くて。
「夕夏ちゃんはー……かわいいね」
「な、なに。急に」
「んー?かわいいなぁって」
「ま、まぁ……ブスではないと思うけど」
「ふふ。そういうことじゃなくて」
どういうこと?と首をひねった相手の頬を包んで、キスの雨を降らした。
せっかくできた流れを崩さず、このまま襲ってもらおうと布団に押し倒したら、肩を掴まれて止められた。
「ち、ちょ……た、たんま」
「?……どうして?」
「絶対、邪魔が入る」
「あぁ…」
悲しいことに、これまでの経験から共感してしまう。
「それに、うち……壁、薄いし」
「声、がまんする」
「そういう問題でなくて」
「えー……じゃあ、今日してくれないの?」
する気満々だったのに、と肩を落とす。
お祭りの後にしたキスで気分は舞い上がってるし、心も体も準備万端。
でも、我慢。
「詩乃ちゃん…」
「ん?」
「す、好き」
できるかなぁ。
人の気も知らないで、かわいいこと言わないで。犯されたくなっちゃう。
思わず吐息した私に、夕夏ちゃんは遠慮もなく頬へキスしてくる。……望んでるのは、そこじゃない。嬉しいけど。
「あの…」
「あのさ」
ふたつの声が被って、私のはたいしたことない、いつも通りの「抱いて」という願望だったから発言権を相手に譲った。
「バス停……あんじゃん」
「初めて会った?」
「うん」
初対面も、再会も雨宿りをした寂れたバス停だった。懐かしい。
「あそこ……人、来ない、から。使われてないバス停、だから」
「ふふ。いいけど、外だよ?」
「壁と屋根あるから、中」
「んー、ならいっか」
相変わらず理解不明な理屈はふたりだけの共通事項として並び、了承した後はいつ人が来てもいいくらいのスキンシップで抑えた。
服は脱がず、色んなところにキスをする。
髪、額、頬、鼻、口、顎、耳、首、うなじ、鎖骨、脇、二の腕、肘、甲、平、指、胸、お腹、おへそ、臀部、内腿、膝、膝裏、脹脛、足首。
大事な部分は避けて、毛布を頭まで被った状態で、一ミリだって肌を見せないよう、見られないよう。
布越しにされる丁寧な愛撫のおかげで、心の方は幾分と充足感に包まれた。
残るは、体内だけ。
ここまできたら、してもしなくても。
というか、ほとんどしてるようなものだし……?
もはや、一種のプレイに思えてきてるし。
「夏休み終わる前にさ」
「うん」
「海は、絶対行こう。チャリで行けるからさ」
他に楽しみなことも、たくさんある。
セックスが無くとも田舎の娯楽は溢れていることを、誰よりも夕夏ちゃんが教えてくれるから。
おかげで、充実してるよ。
今年の夏休みは。




