表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/162

第86話

 天界では、それを“到着”とは呼ばなかった。

 位置が一致した、というだけだ。


 白い空間に、揺れが生じる。

 光が歪み、輪郭を持ち始める。

 人の形だった。


 だが、人間ではない。


 名を、カリス=ノエルという。

 人の形を取っているが、人間的な属性は必要としない存在だった。

 衣服は整っているが、装いというより“仕様”に近い。


「確認対象、発見」


 声は、響かなかった。

 空気を震わせず、意味だけが落ちる。


 次の瞬間、視界が切り替わる。


 地上。

 保護施設の一室。


 ベッドの上に、少年が座っている。

 視線は低く、床を見ていた。


 レイ。


 カリスは、数秒、何も言わなかった。

 見る、という行為に、時間は不要だ。


 だが今回は、間が生じた。


 記録には残らない揺れ。

 判断にも、分類にも使われない、わずかな停滞。


 ――未確定。


 と、記録されることはなかった。


 近くで、紙の擦れる音がした。


「……あの」


 ミラだった。

 手元の書類から視線を上げ、空間の一点を見ている。


 彼女には、カリスの輪郭が“ぼんやりと”見えていた。

 意図的な顕現ではない。

 ただ、距離が合ってしまっただけだ。


「こちらは保護対象です」


 ミラは、慎重に言葉を選ぶ。


「医師の診断も終わっていますし、危険性は――」


「把握しています」


 カリスの声は、遮るでも、急かすでもなかった。


「本件は裁定ではありません」


 それを聞いて、ミラは一瞬、安堵する。

 だが、すぐに違和感が残った。


 裁かない。

 けれど、来ている。


「では……何を?」


 カリスは、レイのほうを見る。

 少年は、こちらを見ていない。

 気づいているかどうかも、分からない。


「確認です」


 それだけだった。


 善悪でも、危険度でもない。

 存在の重さ。

 波紋の広がり。

 他への影響。


 人間の言葉にすれば、そうなる。


 ミラは、無意識に一歩、前に出た。


「この子は、まだ何もしていません」


「知っています」


「選んでもいません」


「把握しています」


 噛み合っているはずなのに、距離は縮まらない。


 ミラは、そこで気づく。


 天界は、上に立っているわけではない。

 裁く位置にもいない。


 ――ただ、遠い。


 遠すぎて、

 同じ言葉が、同じ意味にならない。


 カリスは、再びレイを見る。


 少年は、静かだった。

 拒んでいない。

 受け入れてもいない。


 未確定のまま、そこにいる。


「……以上です」


 カリスは、それだけを残す。


 次の瞬間、輪郭が薄れ、光がほどける。

 揺れは、最初からなかったかのように消えた。


 ミラは、しばらく動けなかった。


 守る、という言葉が、

 急に、頼りなく感じられたからだ。


 一方、レイは。


 何が起きたのか、説明できる言葉を持たないまま、

 ただ、胸の奥に残った“冷え”を、

 理由もなく、覚えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ