第81話
森を抜けてから、
数日が経っていた。
朝は、
普通に来る。
夜も、
ちゃんと暗くなる。
特別な合図はない。
空が少し明るくなり、
鳥が鳴き、
風が動く。
それだけで、
一日が始まる。
レイは、
焚き火の跡を
避けて歩いた。
灰は冷えている。
昨日のものだ。
踏めば崩れる。
形が残っているものを
壊すのが、
なんとなく嫌だった。
足元の土は、
少し柔らかい。
雨は降っていないのに、
湿り気が残っている。
森の名残だろう、
とだけ思った。
――森の外は、
静かだった。
思っていたほど、
何も変わっていない。
呼び止められることも、
追われることもない。
視線を感じることも、
なかった。
剣も、
魔法も、
使っていない。
使う理由が、
なかった。
「……」
言葉にすることも、
特にない。
腹が減ったら、
食べる。
喉が渇いたら、
水を飲む。
川沿いの石に
腰を下ろし、
手を浸す。
冷たい。
それ以上でも、
それ以下でもなかった。
昼を過ぎた頃、
小さな町を
一つ通り過ぎた。
門と呼ぶほどのものはなく、
道の脇に
建物が並んでいるだけだ。
人はいた。
荷を運ぶ者。
立ち話をする者。
子ども。
視線は、
普通だった。
怖がられてもいない。
期待も、
されていない。
よくある光景。
それを横目に、
通り過ぎる。
立ち寄る理由は、
なかった。
――何も起きていない。
それが、
少し不思議だった。
森で感じていた
張りつめた感覚は、
もうない。
世界が、
こちらを見ている
気もしない。
夕方、
開けた場所で
足を止める。
焚き火を起こし、
火を眺める。
木が、
ぱち、と音を立てる。
火の粉が、
少しだけ跳ねる。
それを見ているだけで、
時間は進んだ。
考えようとして、
やめる。
考えなくても、
困っていなかった。
眠くなったら、
横になる。
地面は固いが、
慣れている。
夢は、
見なかった。
朝になっても、
何も起きていない。
同じ空。
同じ風。
昨日と、
ほとんど変わらない世界。
レイは、
立ち上がった。
――それでいいとも、
それでおかしいとも、
思わなかった。
ただ、
そうだった。
何も起きていない。
それだけの一日だった。
遠くで、
何かが、
静かに動き始めていることを、
レイは、
まだ知らない。




