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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第79話

 地上の会議室は、静かだった。

 誰も声を荒げていない。

 机を叩く者もいない。


 空気は乾いている。

 紙とインクの匂い。

 長く使われてきた机の、木のにおい。


 判断を急がない場所に特有の、

 停滞した感覚だけが残っていた。


 それでも、話題は一つに絞られていた。


「街道沿いで確認された事例、以上です」


 記録官が、紙束を揃えて言った。

 角をそろえる指の動きに、迷いはない。


 目撃情報。

 噂話。

 酒場での会話。

 宿屋の主人の証言。


 どれも断片的で、信憑性は低い。

 だが、数が揃うと、扱いは変わる。


 意味ではなく、

 配置として整理される。


「共通点は?」


「子どもに見えること」


「単独行動」


「接触した者に、直接的被害はなし」


 淡々と、読み上げられる。


「危険性は?」


「現時点では、確認されていません」


 誰も落胆しなかった。

 むしろ、わずかに肩の力が抜ける。


 危険でない。

 それは、安心材料だ。


 だが、処理を終えた理由にはならない。

 不明である、という状態が残る。


「では、管理対象だな」


 異論は出なかった。


 危険ではない。

 しかし、未査定だ。


 未査定のものは、制度に入れる。

 判断を保留したまま、

 枠だけを用意する。


 それが、この場所のやり方だった。


「保護、という名目で進めます」


 一瞬だけ、

 言葉の置き方が探られる。


 別の表現も、

 頭をよぎったはずだ。


 だが、訂正はされなかった。


「監視ではない、と?」


「ええ。保護です。

 本人のためにも、

 周囲のためにも」


 善意だった。

 本気で、悪意はない。


 だからこそ、

 線は太くなる。


「接触は?」


「段階的に。

 まずは所在の特定。

 その後、環境調査」


 言葉は柔らかい。

 だが、項目はすでに並んでいる。


 対象は、個人ではない。

 “事例”だ。


「名前は?」


 一瞬、沈黙が落ちる。


「……不要でしょう」


 監督官が言った。


「噂が先行しています。

 今さら固有名を与える必要はない」


 名前を与えれば、物語になる。

 物語は、感情を呼ぶ。

 制度は、感情を嫌う。


「では、符号で管理します」


 書記のペンが、静かに動き出す。


 その瞬間、

 噂は役目を終えた。


 紙は重ねられ、

 端が揃えられ、

 判が押される。


 音は小さい。

 だが、確かだった。


 会議は、滞りなく終わった。


 誰も後悔していない。

 正しいことをした、

 という感覚だけが残る。


 判断を急がなかった、

 という満足だけが共有される。


 遠くで、世界が動いていることを、

 当事者だけが、

 まだ知らないまま。

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