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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第四章:三界衝突編

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第77話

 天界の広間には、音がなかった。


 正確には、音は存在している。


 羽音も、光の揺らぎも、記録装置の微かな振動も。


 ただ、それらはすべて

「意味を持たない音」

として処理されていた。


 ルクス=エルディアは、

 円形の卓の縁に立ったまま、動かなかった。


 視線の先には、

 観測記録が重ねられている。


 数値は揃っている。

 誤差も、揺らぎも、許容範囲だ。


 それでも――。


「……線が、消えている」


 呟きは、独り言に近かった。

 誰かに聞かせるための声ではない。


 観測領域と、非観測領域。

 裁定対象と、裁定外。


 天界が、長い時間をかけて引いてきた境界。


 それが、壊れたわけではない。

 越えられたわけでもない。


 ――ただ、

 そこに置いてあった意味が、

 残っていなかった。


「危険か?」


 誰かが、問いを落とす。


 声の主は、

 記録官だったか、

 補助官だったか。


 ルクスは、振り返らない。


「危険、という言葉を使うには、

 まだ足りない」


 即答だった。

 定義、という語を、

 あえて口にしなかった。


「現時点では、

 被害は出ていない」


「干渉も、侵食も

 確認されていません」


「数値上の逸脱も――」


「分かっている」


 ルクスは、

 ようやく卓の中央を見る。


 そこには、何も映っていない。

 映らない、

 という結果だけが残っている。


「だからこそ……」


 言葉が、

 そこで一度途切れた。


 空気が、

 わずかに張り詰める。


 命令でも、

 裁定でもない。


 ただ、

 続くはずだった言葉を、

 誰も促さなかった。


「線を引くとは、

 裁くことじゃない」


 ルクスは、

 そう言ってから、

 ほんの一拍置いた。


「触れない場所を

 決めるだけだ」


 保護でもない。

 排除でもない。


 ただ、

 距離を定める。


 それだけで、

 何かが変わることがある。


「恐れているのか?」


 別の声が、

 静かに問う。


 非難ではない。

 確認だった。


 ルクスは、

 一瞬だけ黙った。


「……速すぎる」


 それ以上は、

 続けなかった。


 言葉にすれば、

 揃いすぎてしまう気がした。


 光が、

 わずかに揺れる。


「……裁定は、

 保留されている」


 誰かが、

 事実を告げる。


 拒否でも、

 承認でもない。


 ただの、

 現状だ。


 ルクスは、

 うなずかなかった。


 否定もしない。


 線は、

 まだ引かれていない。


 だが、

 引くという選択肢が、

 卓の上に残った。


 天界の広間に、

 再び音のない時間が戻る。


 誰も裁かれていない。

 誰も間違っていない。


 それでも、

 足元の位置だけが、


 ほんのわずかに、

 ずれていた。

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