81/162
幕間
街道沿いの酒場で、男たちが声を落とした。
「聞いたか」
「ああ。子どもだろ」
「いや、子ども“みたいな”」
誰の話かは、言わない。
名前も、出さない。
背が低いだとか。
森から出てきただとか。
近づくと、空気が変わるだとか。
話は、少しずつ形を変える。
尾ひれがつき、角が立ち、
触れないほうがいいものになる。
「関わらなきゃいい」
「見なかったことにしろ」
「使えるなら、使えばいい」
確かめに行こうとする者はいない。
本人がどうか、ではない。
噂のほうが、先に歩いている。
人よりも速く。
遠くへ。
名前は、いらない。
呼ばれないほうが、都合がいい。
そうして噂は、扱いやすい形になる。
世界は、静かに準備を始める。
距離を測る準備を。
選別するための理由を。
まだ、何も起きていない。
けれど、止まることもない。
名前のないまま、
それは、もう広がっている。




