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幕章
森を抜けた、
と言い切れる線はなかった。
ある瞬間に、
景色が変わったわけでもない。
光が、
一気に増えたわけでもない。
ただ、
足元の土が少し乾いていて。
枝の絡み方が、
わずかに違っていて。
空気が、
押し返してこなくなった。
振り返れば、
まだ木々は見える。
暗さも、
湿りも、
そこにある。
けれど、
戻れる気はしなかった。
背中に残る気配が、重い。
呼ばれているようでも、
拒まれているようでもない。
ただ、
そこに「線」が引かれた感じがした。
前を向く理由は、ない。
後ろに戻る理由も、もうない。
森は、背後にある。
それだけが、
確かなことだった。




