第7話
朝か、夜か。
よく分からない時間に、目が覚めた。
暗い。
でも、完全な闇じゃない。
天井が、低い。
岩だ。
土と石の匂いが、鼻につく。
「……ここ……」
声を出した瞬間、喉が痛んだ。
「洞穴だ」
すぐそばから、声。
びくりと、体が強ばる。
赤い目。
グラドは、壁にもたれて立っていた。
「寝ていた」
「……どれくらい……」
「半日ほど」
体を起こそうとして、失敗した。
腕に、力が入らない。
「無理をするな」
短く言う。
「今のお前は、空っぽだ」
「……からっぽ……」
「使いすぎた」
それ以上は、言わない。
洞穴の奥から、ひんやりした空気が流れてくる。
外の音は、ほとんど聞こえない。
「……あんぜん……?」
つい、聞いてしまった。
すぐに、首を横に振る。
「いいや」
迷いのない否定。
「だが、死ににくい場所ではある」
少しだけ、息が緩む。
前にしゃがみ込み、
目線が、同じ高さになる。
「覚えておけ」
低い声。
「ここでは、目を信用するな」
「……め……」
「耳もだ」
洞穴の奥を、指で示す。
「森は、見せたいものしか見せない」
唾を、飲み込む。
「……じゃあ……どうやって……」
「感じろ」
一言。
「……なにを……」
「全部だ」
立ち上がる。
「空気。
温度。
音の抜け」
よく、分からない。
「心臓の速さ。
腹の重さ。
背中のぞわつき」
思わず、胸に手を当てる。
どくん。
どくん。
「怖いか」
不意に、聞かれる。
「……こわい……」
そのまま、答えた。
「それでいい」
淡々と。
「怖さを消そうとするな」
「……でも……」
「怖さは、知らせだ」
赤い目が、こちらを見る。
「生きろ、という合図だ」
洞穴の外で、
低い音が鳴った。
遠い。
でも、重い。
背中が、ひくりと震える。
「……いまの……」
「気づいたな」
わずかに、口角が上がる。
「それだ」
胸が、きゅっと縮む。
怖い。
でも――。
聞こえた。
「今日は、ここまでだ」
「……え……」
「これ以上やれば、混乱する」
入口へ向かう。
「寝ろ」
「……ひとり……?」
「近くにいる」
振り返らずに。
「襲われたら、起こす」
その言葉は、信じられた。
ゆっくり横になる。
冷たい地面。
固い。
それでも、目を閉じる。
意識が沈む直前。
洞穴の外で、森が、かすかに鳴いた。
言葉じゃない。
でも――
見られている感覚。
拒まれてはいない。
それだけは、分かった。
理由は、分からない。
ただ、
ここは、まだ――
生きていていい場所だ。




