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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第三章:森の外・彷徨編

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第72話

 足音が、自分のものだけになる時間が長い。

 一定ではない。

 速くなったり、遅くなったりする。

 合わせようとしても、揃わない。


 歩きながら、背中を意識する。

 何かが当たる感触はない。

 視線も、気配も。

 それでも、首の後ろが冷える。


 一度、振り返りたい衝動が来る。

 理由は、はっきりしない。

 ただ、確認したい。


 足を止める前に、歩幅を小さくする。

 音が変わる。

 靴底が、路面をこする音。

 それだけ。


 振り返る。

 道は、続いている。

 昨日と同じ。

 人影は、ない。


 分かっていたはずなのに、胸の奥が少し沈む。

 軽くはならない。

 むしろ、重くなる。


 また歩く。

 数十歩で、同じ衝動が来る。

 今度は、我慢しない。


 振り返る。

 やはり、何もない。

 草が揺れているだけ。

 風の向きも、さっきと変わらない。


 追われていない。

 その事実が、落ち着きをくれない。


 歩き続ける。

 道の端に、小さな石が増えている。

 踏まないように避ける。

 避けたことで、立つ位置がずれる。


 一歩ごとに、距離の感覚が変わる。

 それを、追ってしまう。


 少し先で、道が緩く曲がっている。

 見えなくなる角度。

 そこに何かがいる想像が、勝手に浮かぶ。


 近づくにつれて、呼吸が浅くなる。

 整えようとして、うまくいかない。

 自分の音が、やけに大きい。


 角を越える。

 何もいない。

 空間が、そのまま続いている。


 肩の力が抜ける。

 でも、完全には抜けない。

 戻りきらない。


 手を見下ろす。

 指が、少し震えている。

 寒さではない。


 力を入れれば、止まる。

 そう分かっているのに、入れない。

 入れたくない、のかもしれない。


 また、振り返る。

 さっきより、速く。

 反射みたいに。


 何もない。

 変わらない。

 それが、続く。


 歩く速度が、少しずつ落ちる。

 意識していないのに、そうなる。

 足が、先に決めている。


 遠くで、鳥が飛び立つ音がした。

 一瞬、体が強張る。

 すぐに、音は消える。


 追われていない。

 でも、追われていないことを、何度も確かめている。


 それに気づいて、気分が悪くなる。

 自分が、自分を追っているみたいだった。


 道の中央に戻る。

 左右の距離を、均等にする。

 少しだけ、歩きやすい。


 風が、背中から吹く。

 押される感じがして、歩幅が広がる。

 広がった分、また不安になる。


 前を見る。

 後ろを見ない。

 それを、決め事みたいにする。


 数歩。

 また、衝動。


 今度は、首だけを少し動かす。

 視界の端で、確かめる。

 それでも、何もない。


 確かめ方が、増えていく。

 大きく振り返る。

 小さく振り返る。

 目だけ動かす。


 どれも、同じ。

 何も起きない。


 安心できないまま、時間だけが過ぎる。

 日が、少し高くなっている。

 影が、短くなっている。


 足裏に、違和感。

 靴底が、薄くなった気がする。

 路面の硬さが、直接伝わる。


 それでも、止まらない。

 止まる理由が、見つからない。


 追われていない。

 だから、走らない。

 だから、向き合わない。

 距離だけを取る。

 前とも、後ろとも。


 道は、変わらない。

 世界も、何もしない。

 それが、一番落ち着かない。


 足を出す。

 音が返る。

 それを確かめて、また一歩。


 今日も、何も起きないまま、進んでいる。

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