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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第三章:森の外・彷徨編

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第69話

 昼を少し過ぎた頃、道の端に布が見えた。

 広げられているわけじゃない。

 畳まれたまま、石の上に置かれている。


 近づくと、布の下から影が動いた。

 人がいる。

 気配は、ずっと前からあったらしい。


 立ち止まる。

 距離は、声をかければ届くくらい。

 声を出さなくても、視線は合う。


 相手は、こちらを見ていない。

 荷の方を向いたまま、手だけが動く。

 指が、何かを数えるように折れていく。


 道の真ん中を塞いでいるわけじゃない。

 避けようと思えば、避けられる。

 それでも、足が止まった。


 腹の奥が、また鳴りそうになる。

 喉が渇く。

 口を開く前に、舌が重くなる。


 布の端が、少しめくれる。

 中から、乾いた匂いが漏れた。

 穀物か、干した肉か。

 判別はつかない。


 値段を聞く言葉が、浮かばない。

 聞いたところで、出せるものはない。

 それを、先に思い出す。


 相手の視線が、こちらに流れる。

 顔は、よく見えない。

 帽子の影が、目元を隠している。


 沈黙が、続く。

 短くも、長くもない。


 相手が、手を止める。

 布の上に、小さな袋を一つ置いた。

 紐は、固く結ばれている。


 こちらを見る。

 袋を見る。

 もう一度、こちらを見る。


 言葉はない。

 差し出されたわけでもない。

 ただ、置かれている。


 袋の重さを、目で測る。

 軽い。

 中身は、多くない。


 空腹が、はっきりする。

 腹の動きが、自分でも分かる。


 代わりに出せるものを、探す。

 腰。

 ポケット。

 何もない。


 視線を、地面に落とす。

 小石が転がっている。

 拾っても、意味はない。


 相手が、袋を少しだけ押す。

 こちらの方へ、指一本分。

 それ以上は、動かさない。


 条件が、そこにある気がする。

 内容は、分からない。

 言われていないからだ。


 腕が、重くなる。

 力が抜ける感じじゃない。

 上げるのが、億劫になる。


 袋を取れば、何かが始まる。

 取らなければ、終わる。

 そういう形だけが、残る。


 相手の顔を、見ない。

 見たら、判断しそうだった。


 金がないことを、もう一度思い出す。

 思い出すというより、確認だ。


 袋に、触れない。

 指先が、空を切る。


 相手が、ため息のような音を出す。

 短く。

 すぐに消える。


 袋を、元の位置に戻す。

 布の上に、ぴたりと。


 それで、終わりらしい。

 相手は、もうこちらを見ない。

 道を、空けてくれる。

 ほんの少しだけ。


 通り過ぎる。

 肩が、自然にすくむ。

 背中に、視線を感じる。


 振り返らない。

 足を、早める。


 数歩進んで、腹が痛くなる。

 さっきより、強い。

 逃げた感じが、残る。


 それでも、戻らない。

 袋の中身を、想像しない。


 少し先で、別の影が動く。

 今度は、道の向こう側。


 荷車の音がする。

 木と鉄が擦れる、低い音。


 こちらを、一瞬見る。

 すぐに、視線が逸れる。

 距離が、保たれる。

 近づいてこない。


 腕の重さが、抜けない。

 力を使ったわけじゃないのに。


 空腹が、続く。

 金がない感覚も、続く。


 声を出さないまま、

 いくつかのやりとりが終わった。


 何も得ていない。

 何も失っていない。


 それでも、腕は重いままだった。

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