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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第三章:森の外・彷徨編

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第68話

 街道は、しばらく同じ幅で続いていた。

 踏み固められた土の色も変わらない。

 靴底が擦れる音だけが、少しずつ軽くなる。


 前を見ると、道が二つに分かれている。

 片方は、今までと同じ色。

 もう片方は、少し明るい。


 立て札が一本。

 板は古く、文字は削れている。

 読める部分と、読めない部分が混じっていた。


 右。

 左。

 どちらにも、人影はない。


 風が吹く。

 違いは、分からない。


 足を止めたまま、時間だけが進む。

 空腹が、少し上がる。

 胃は鳴らない。


 右の道は、少し広い。

 わだちが残っている。

 荷車が通った跡だと、すぐ分かる。


 左は、細い。

 草が縁に伸び、踏み分けた跡も古い。


 どちらを選んでも、街道だ。

 それだけは、確かだった。


 足先が、右へ向きかける。

 広い方が、楽だと知っている。

 そのまま、止まる。


 右の先に、何かがある気がした。

 人か、建物かは分からない。

 ただ、視線が集まる感じだけが、先に来る。


 見られてはいない。

 音もない。

 それでも、背中が固くなる。


 返事をする前提で、考えていることに気づく。

 それだけで、足が動かなくなる。


 左を見る。

 細い。

 通りにくそうだ。


 靴の裏で、小石を踏み直す。

 中は、まだ空っぽだ。

 ここまで来て、何も買っていない。


 右の道には、行商が通るかもしれない。

 そう思った瞬間、腹の奥が重くなる。


 渡される想像が浮かぶ。

 代わりに、何かを求められる。

 断る言葉が、浮かばない。


 だから、返事をしない方を選ぶ。


 左へ、一歩。

 地面が、少し柔らかい。

 沈む感触が、靴底に残る。


 右は、見ない。

 見たら、戻りそうだった。


 二歩、三歩。

 道幅が、確実に狭くなる。

 草が、足に触れる。


 後ろから声が飛んでくる気がして、肩が跳ねる。

 何も来ない。


 金がないことを、思い出す。

 思い出すというより、ずっとある。


 頼まれても、応じられない。

 応じられない理由を、説明できない。

 そのやりとり自体が、重い。


 だから、関わらない。


 左の道は、静かだ。

 足音が、草に吸われる。


 少し進んで、振り返る。

 分かれ道は、もう見えない。

 木立に隠れている。


 戻ろうと思えば、戻れる。

 そう思うと、胸が詰まる。


 戻らない。

 決めたわけじゃない。

 足が、そちらを向かないだけだ。


 空腹が、また一段上がる。

 軽いめまい。

 立ち止まりそうになって、耐える。


 使われるより、使われない方を選んだ。

 そう言うと、違う気がする。


 ただ、通らなかった。

 それだけだ。


 道は、まだ続いている。

 細く、静かに。


 前に何があるかは、分からない。

 背中の視線は、確かめない。


 足を前に出す。

 靴底が、少し減っている。


 通らなかった道は、

 もう、考えない。

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