第64話
街道は、思っていたよりも近かった。
門を抜けて、少し歩くだけ。
道は、まっすぐだ。
踏み固められている。
両脇に、草。
背の低い木。
街の音は、まだ届く。
金属の音。
人の声。
でも、ここには来ない。
レイは、立ち止まる。
振り返らない。
振り返っても、何も起きない。
それは、もう分かっている。
腹が鳴る。
音が、広い。
歩き出す。
足音が、自分のものだけになる。
街道には、誰もいない。
時間が、早い。
靴の底が、乾いた音を出す。
森の中とは、違う。
土が、固い。
石が、混じっている。
歩くたびに、感触が変わる。
少し進むと、街の門が見えなくなる。
建物も、隠れる。
道だけが、残る。
ここから先は、知らない。
でも、戻る理由も、ない。
ポケットに、何もない。
音も、しない。
昨日、持っていたはずのもの。
どこで、なくしたのか。
考えない。
考えても、戻らない。
風が、正面から来る。
街の匂いが、薄くなる。
代わりに、
土の匂い。
草の匂い。
遠くで、鳥の声。
近くには、いない。
レイは、歩く速さを変えない。
急がない。
遅れない。
道の端に、古いわだちがある。
何度も、通った跡。
人は、ここを通る。
でも、今はいない。
誰かと一緒に歩く想像は、しない。
声をかけられることも、考えない。
ただ、足を出す。
一度、立ち止まる。
靴の中の石を、払う。
しゃがんで、手で触る。
小さい。
軽い。
そのまま、捨てる。
立ち上がると、道が続いている。
曲がりも、分かれも、まだ先。
街は、もう見えない。
音も、届かない。
それで、分かる。
追われていない。
見送られても、いない。
ただ、外にいる。
レイは、もう一度、歩き出す。
街道は、先に伸びている。
どこまで行くかは、決めない。
決められない。
足が止まるまで、歩く。
街は、背後にある。
でも、戻る道ではない。
レイは、街道へ進む。




