第60話
昼の通りは、忙しかった。
人が多く、声も多い。
壁際に、立つ。
影の中。
箱は動く。
人の手で。
声は、かからない。
立っている。
それだけ。
昼が過ぎる。
匂いが、強くなる。
腹が鳴る。
今日は、はっきり。
動かない。
夕方。
通りの音が、変わる。
荷車が減り、片づけが始まる。
「おい」
後ろから。
振り返る。
知らない大人。
昼には、見なかった顔。
「夜、手ぇ空いてるか」
少し、間。
うなずく。
「これ、片づける」
壊れた箱。
木くず。
通りの端。
人の少ない場所。
運ぶ。
軽くはない。
でも、昼より楽だ。
周りに、人がいない。
声も、少ない。
空が、暗くなる。
店の灯りが、点く。
別の大人が来る。
昼に見た顔。
こちらを見る。
少し、間。
「まだ、やってたのか」
責める声じゃない。
「夜は、危ないぞ」
それだけ言って、去る。
作業は、続く。
人は、増えない。
影が、増える。
暗い。
足元が、見えにくい。
木片が、刺さる。
痛い。
声は、出ない。
終わるころ、空は黒い。
通りは、ほとんど静か。
さっきの大人が、戻ってくる。
「助かった」
短い言葉。
金は、出ない。
「昼は、人足りてるからな」
独り言みたいに。
うなずく。
夜風が、冷たい。
体の熱が、抜ける。
門のほう。
セインがいる。
昼より、近い。
見ている。
歩く。
寝床へ。
昼は、呼ばれない。
夜は、呼ばれる。
布の上に、体を丸める。
眠りは、浅い。
夜だった。
それだけ。
明日、昼に立てるかは、分からない。




