第50話
朝は、いつもと同じだった。
道の石は冷たく、影はまだ長い。
店の扉が開く音。
桶の水が揺れる。
声が重なり、街が動き出す。
そこに、立っていた。
最初から居たみたいに。
「これ、運べるか」
近づいて、うなずく。
持ち上げる。
重い。
街の音が続く。
金属。
荷車。
知らない人の声。
立っている場所が、前にずれる。
それだけが残る。
昼前。
荷の積み替え。
木箱が並ぶ。
紐が張られ、人の動きが速くなる。
乾いた音。
木箱の一つが傾く。
留めが甘い。
「おい——」
声。
箱がずれる。
中が動く。
下に、小さい影。
ミナより、少し小さい。
手を伸ばしている。
人が動く。
距離がある。
近い。
足が出る。
箱は重い。
手のひらが熱くなる。
止まる。
門のほう。
セイン。
何も言わない。
一瞬。
箱は、まだ落ちない。
端を押す。
体を横に滑らせる。
肩が、誰かにぶつかる。
息が詰まる。
子どもを引く。
地面を転がる。
次の瞬間。
箱が落ちる。
重い音。
土が跳ねる。
「大丈夫か!」
子どもは泣かない。
目を見開いている。
腕が擦れる。
人が集まる。
「助かったな」
「危なかったぞ」
箱の中身。
一部が割れている。
立ち上がる。
土を払う。
少し遅れて、ルガ。
箱。
こちら。
「……ここまでだ」
低い声。
「これ以上は、やらせない」
うなずく。
仕事が止まる。
人が散る。
夕方。
音が減る。
門の近く。
影が長い。
いつもの場所。
座れる。
追われない。
でも、同じじゃない。
内でもない。
外でもない。
その間。
影が揺れる。
風が来る。
端に立ったまま、動かない。
ただ、
ここが境目だと、残った。




