第49話
夜中に、何度か目が覚めた。
外の音じゃない。
自分の体の音。
腹のあたりが、動く。
鳴らない。
でも、起こされる。
起き上がるほどではなくて、
目を閉じ直す。
それで、朝になる。
空は曇っていた。
明るくも、暗くもない。
服を整えて、外に出る。
いつもの道。
足元の石は、昨日と同じ場所。
仕事はあった。
昨日と変わらない。
運ぶ。
置く。
戻る。
数は、浮かぶ。
でも、数えない。
昼前に、終わる。
手のひらに、丸いものが落ちた。
ちゃり。
一枚。
それ以上は、見ない。
歩く。
音がしないように、強く握る。
店の前で、匂いがする。
止まる。
止まってから、進む。
一番小さいパンを選ぶ。
固いやつ。
手に乗せると、軽い。
すぐには食べない。
半分に割る。
割れ目は、きれいじゃない。
片方を、布に包む。
落とさないように、奥へ。
もう半分を、食べる。
噛む。
時間がかかる。
飲み込む。
腹の奥が、少し静かになる。
残したほうに、何度か触る。
ある。
まだ、ある。
夕方、手伝いはなかった。
座る場所を探す。
日が落ちるまで、動かない。
夜。
布を開く。
昼より、固い。
でも、食べられそう。
食べない。
ただ、戻す。
横になる。
眠りは浅い。
何度か、布のほうを見る。
朝。
起きる。
空気が、冷たい。
布を開く。
さらに、固くなっている。
匂いが、少し変わった。
指で押す。
戻らない。
口に入れる感じが、違う。
捨て場まで行く。
誰も、見ていない。
でも、急ぐ。
パンを落とす。
音は、しない。
手は、軽い。
中も、空。
そのまま、仕事場へ向かう。
歩き方は、昨日と同じ。
腹は、また静かじゃない。
何かを残した気がする。
でも、手元にはない。
それで、今日が始まる。




