第46話
朝から、荷が積まれていた。
いつもより、多い。
いつもより、大きい。
木箱だけじゃない。
丸太。
濡れた袋。
中身がずれて、形が決まらないやつ。
地面は、少し湿っている。
乾ききっていない土が、靴にくっつく。
言われる前に、近づいた。
声をかけられるのを、待たなかった。
最初の箱を持ち上げる。
腕に、重さがかかる。
肘が、少し伸びきらない。
踏ん張る。
足の裏が、沈む。
運ぶ。
置く。
息が、少し速くなる。
でも、止めない。
次の荷に、手を伸ばす。
指先が、ざらついた木に触れる。
そのとき、
ほんの少しだけ、変な感覚があった。
――触れば、いける。
言葉になる前に、消える。
丸太を転がす作業に入った。
一人では、無理だ。
だから、二人で。
掛け声。
力を合わせる。
丸太は、途中で止まった。
地面の凹みに、はまっている。
「……あー」
誰かの声。
押す。
動かない。
引く。
滑る。
時間が、流れる。
また、同じ感覚が浮かんだ。
――踏めば、いける。
足の裏が、熱くなる気がした。
地面の形が、はっきり分かる。
丸太しか、見ていない。
止める声は、ない。
「時間、かかるね」
少し離れたところで、ミナが言う。
「押せばいいのに」
丸太に手を当てたまま、動かなかった。
手のひらに、木の冷たさ。
ささくれ。
一歩、引く。
力を、抜く。
手を、離す。
「……ごめん」
別の大人が来て、人数が増える。
三人で押す。
丸太は、少しずつ動く。
音を立てて、転がる。
時間が、かかる。
腕が、じんとする。
肩が、重い。
次の作業も、楽じゃなかった。
濡れた袋が、滑る。
一度、落としかける。
踏ん張って、耐える。
足首が、少しひねれた。
痛い。
でも、声は出ない。
昼を過ぎて、影が長くなる。
最後の荷が、運ばれる。
置いた瞬間、手が震えた。
「大変だったな」
うなずく。
それだけ。
水を飲む。
喉を通る音が、はっきり聞こえる。
腹が、鳴る。
帰り道、足が重い。
一歩ずつ、確かめる。
体に、残っている。
痛みと、空腹。
それから、
使わなかった力の、感覚だけが。




