表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された7歳の俺、天使と悪魔の混血だったので全属性が目覚めました 〜禁忌の子は魔の森で世界に選ばれる〜  作者: ぴすまる
第三章:森の外・彷徨編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/74

第43話

 朝か昼か、はっきりしない時間だった。


 日差しはあるのに、影は短くならない。


 道に人が増えてきている。

 急ぐ足と、そうでもない足が混ざって、

 通りだけが先に進んでいく。


 いつもの場所に立つ。

 立っている、というより、

 そこにいる時間が、昨日より長い。


 壁際。

 道具がまとめて置かれている場所のそば。


 邪魔にはならないが、

 呼べば届く距離だった。


 通りの向こうから、足音が近づく。


 修理屋の前を通りかかった男が、

 ちらりとこちらを見る。


 何も言わず、

 手を小さく振った。


 合図だと受け取って、縄をほどく。


 木箱は、軽くはない。

 持てない重さでもない。


 腕に、じわっと力が入る。


 足元の石を踏み外さないよう、

 気持ちだけ前に置いて歩く。


「それ、こっちだ」


 声がして、向きを変えた。


 知らない男だった。

 服は汚れているが、

 顔は疲れていない。


 一度、こちらを見る。

 それから、修理屋のほうを見る。


「手伝いか?」

「ああ。ちょっとな」


 短いやり取りで、

 それ以上は続かない。


「……小さいな」


 返事はしなかった。

 肩をすくめる動きだけが、返る。


 箱を下ろす。

 地面に当たって、木が鳴る。


 その音を聞いてから、

 次の箱に手を伸ばした。


「おい」


 呼ばれて、顔を上げる。


 視線は、測るようでも、

 興味でもない。

 その途中にある。


「名前は?」


 一瞬、音が遠くなった。


 通りの声も、足音も、薄くなる。


 名前。

 その言葉が、胸の奥に落ちて、止まる。


 口を開こうとして、何も出ない。

 出そうとしたわけでもないのに、

 喉だけが動かない。


 男は、少し待った。

 待ってから、首をかしげる。


「……あ?」


 横から、声が飛んできた。


「ねえ、あんたさ!」


 小さな籠を抱えた女の子が、

 走ってくる。


 息を切らしながら、

 間に割り込んだ。


「この子、名前まだ決めてないんだよ」


「決めてない?」

「そうそう。だからさ、

 あだ名でいいじゃん。楽だし」


 男は、こちらを見る。

 それから、女の子を見る。


 一度、息を吐いた。


「……まあ、いいか」


 それ以上、聞かれなかった。

 名前の話も、そこで終わる。


 女の子は、満足そうにうなずく。

 籠を地面に置いた。


「じゃあ、あとこれも運んで。

 軽いやつ」


 うなずく。

 声は出さない。


 作業は続く。


 箱は減り、

 道が少しずつ空いていく。


 途中で、誰かがこちらを見る。


 さっきの男とは違う大人。

 長くは見ない。


 一度だけ、

 確かめるみたいに。


 その視線が、

 嫌だとも、

 安心だとも、言えなかった。


 昼を過ぎるころ、

 手伝いは終わった。


 修理屋の男が近づいてきて、

 肩を軽く叩く。


「もういい」


 それだけ。


 道具を元の場所に戻す。

 縄をまとめ、端に寄せる。


「ありがとな」


 誰かの声。

 誰に向けた言葉かは、分からない。


 名前は、呼ばれなかった。

 最後まで。


 それでも、

 次も、ここに立つ気がした。


 理由は、分からない。


 振り返らずに歩き出す。


 後ろで、

 また人の声が重なる。


 呼ばれそうで、

 呼ばれなかった。


 それだけが、残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ