第39話
昼になると、街は少し荒くなる。
声が大きくなり、動きが速くなる。
日陰からは、出なかった。
腹が、はっきり重い。
減っているのに、重い。
市場の端で、人が集まっている。
荷を下ろす馬車。
「二人いるぞ!」
声が上がる。
男たちが集まる。
腕。
背。
声の太さ。
立ち上がらない。
少し離れた場所に、視線を感じる。
口は出てこない。
仕事は、すぐ決まる。
指が動き、二人が選ばれる。
「一刻で銅三枚だ」
数字が、はっきり聞こえた。
銅三枚。
音を立てて、人が散る。
選ばれなかった人も、戻っていく。
別の通りでは、掃除の声。
溝さらい。
「半日で銅二枚!」
今度は、女も混じる。
視線が、一度だけ通り過ぎる。
屋台の前で、鍋が鳴る。
匂いが、強い。
足が、止まる。
声は、かからない。
代わりに、子どもが入っていく。
「これ、運ぶの?」
「そうだよ。熱いから気をつけな」
昨日より、少し忙しい声。
見ているだけになる。
通りを離れる。
路地の奥。
人の少ない場所。
壁にもたれると、腹が鳴った。
はっきりと。
手の中には、何もない。
昨日のスープを思い出す。
温度と、腹の奥に落ちた感覚だけ。
近くに、気配が来る。
「金がない顔だな」
「……うん」
「働けそうか」
首を振る。
「……むり」
声は、小さい。
それ以上、聞かれない。
代わりに、指が動く。
通りの向こう。
地面に落ちた荷を、男が拾っている。
破れた袋から、豆が散っている。
子どもが、二人。
走って拾う。
「おい、やめろ!」
一人は、逃げる。
もう一人は、止まる。
「……ひろってただけ」
袋が、引き寄せられる。
「仕事じゃねぇ」
それで終わる。
豆は、戻らない。
視線を、外す。
腹が、また動く。
影の中に、座り込む。
銅三枚の音を思い出す。
じゃら、という軽い音。
昼は、まだ長い。




