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幕章
少年は、森を出た。
振り返らなければ、
それで終わる程度の出来事。
足が土を離れ、
空気の匂いが変わり、
背後にあったものが、
ただの「背後」になる。
その変化は小さい。
だが、
三つの世界には、
それぞれ違う形で届いた。
天は、揺れを数えた。
記録に残すほどの異常ではない。
見逃すこともできた。
それでも、視線は一度止まる。
地は、気づく。
失われたものではない。
外に出たものがある。
回収の要否は、
まだ、棚に置かれたまま。
底は、笑った。
声はない。
理由もない。
待っていたものが,
動いた。
それだけを受け取る。
名は、まだ呼ばれていない。
意味も、与えられていない。
それでも、
線は引かれ,
境は越えられた。
戻れないわけではない。
戻らない選択肢が,
ひとつ増えただけだ。
世界は,
すぐには変わらない。
止まったままでも,
いられない。
少年の知らない場所で,
世界は,
静かに動き始めている。




