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処刑された7歳の俺、天使と悪魔の混血だったので全属性が目覚めました 〜禁忌の子は魔の森で世界に選ばれる〜  作者: ぴすまる
第二章:魔の森・修練編

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第34話

 森を抜けた、と言い切れる線はなかった。

 ある瞬間に景色が変わったわけでも、

 光が一気に増えたわけでもない。


 足元の土が、少し乾いている。

 枝の絡み方が、わずかに違う。

 空気が、押し返してこなくなった。


 それだけだった。


 立ち止まらなかった。

 止まる理由が、もう見つからない。


 背中に、視線のようなものを感じる。

 振り返れば、森はまだそこにある。

 音も、影も、匂いも消えていない。


 追っては、こなかった。


 数歩先を、歩く背中がある。

 足取りは、変わらない。


「……ここだ」


 短く言って、止まった。


 街道だった。

 広くはない。

 人の足が通った跡が、残っている。

 車輪の溝。

 踏み固められた地面。

 人の世界の、痕。


 黙って、それを見る。


 森の中で、道は信じられなかった。

 踏み跡は、罠になる。

 続くと思った場所は、途切れる。


 だが、ここは違う。

 この道は、どこかへつながっている。


 少し、怖かった。


「ここからは、森は守らない」


 声は、低い。


「追いもしない」


 小さく、うなずく。

 意味は、全部は分からない。

 もう、説明はされない。


 足の裏が、じんと痛む。

 靴の中は、まだ湿っている。

 腹の奥は、重たいままだ。


 それでも、立っている。

 倒れていない。

 それで、よかった。


 風が吹く。

 森のほうから。

 葉の揺れる音が、少し遅れて届く。


 境目を越えた、という言葉より先に、

 身体が反応する。


 振り返らなかった。

 見ると、戻れなくなる気がした。


「……来るなよ」


 誰に向けた言葉かは、分からない。

 返事は、なかった。


 街道の先に、音がある。

 金属の触れる音。

 人の声。

 生活の気配。


 安全ではない。

 森とも、違う。


 前を行く背中が、歩き出す。


「行くぞ」


 それだけ。


 一歩、前に出る。

 足は重い。

 判断は、遅れる。

 正しいかどうかは、分からない。


 森は、背後にある。

 振り返らなければ、追ってこない。

 消えもしない。


 選ばれたわけではない。

 救われたわけでもない。

 生き延びた。


 それだけを抱えたまま、

 人の世界へ、歩き出した。

第二章はここまでです。

明日から第三章が始まります。

舞台は森の外へ移ります。

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