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処刑された7歳の俺、天使と悪魔の混血だったので全属性が目覚めました 〜禁忌の子は魔の森で世界に選ばれる〜  作者: ぴすまる
第二章:魔の森・修練編

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第31話

 森の中で、影は追ってこなかった。

 気配も、音も、

 さっきまで背中に刺さっていた視線も。

 少しずつ、薄れていく。

 消えた、とは言えない。

 ――遠くなった。

 

「……行った?」

 

 歩きながら、問いが落ちる。

 

「行ってない」

 

 返事は、即。

 

「離れただけだ」

 

 離れる。

 逃がされた、という意味でもある。

 

 胸の奥に溜まっていた息が、

 少しだけ抜けた。

 

 足が、重い。

 怖さが抜けた反動で、

 身体が急に遅れる。

 

「休むか」

 

 短い声。

 

 反射的に、うなずく。

 

 ――失敗だった。

 

 腰を下ろした瞬間、

 森の空気が、ぴたりと止まる。

 

 静かすぎる。

 鳥も、虫も、

 いない。

 

「……あ」

 

 声が、遅れて出た。

 

 すぐに、立ち上がる気配。

 

「動くな」

 

 低い声。

 

 遅い。

 もう、遅い。

 

 地面の奥で、

 何かが“揃う”感覚。

 

 音じゃない。

 振動でもない。

 位置だ。

 

 周囲の木。

 根。

 茂み。

 

 全部が、

 “ここ”を向いている。

 

「……ごめん」

 

 かすれた声。

 

「謝るな」

 

 前に、立たれる。

 

「今のは、普通の判断だ」

 

 普通。

 

 だからこそ、

 森は、それを待っていた。

 

 休む。

 油断する。

 気を抜く。

 

 人が、必ずやること。

 

 枝が、一本落ちた。

 

 音は、小さい。

 合図としては、十分だった。

 

 奥の暗がりで、

 影が、ひとつ動く。

 

 近づかない。

 出てこない。

 

 ただ、

 “そこにいる”と分かる位置。

 

「……来ない」

 

「来る気がない」

 

 視線は、外れない。

 

「“止まり方”を、見ている」

 

 唇を噛む。

 

 座ったままなのが、

 これほど怖いとは思わなかった。

 

 立ち上がるのも、

 動くのも、

 すべて、見られている。

 

「……どうすれば」

 

「選ぶな」

 

 短い返答。

 

「選んだ瞬間、主導権が向こうに行く」

 

 ゆっくり、息を吸う。

 

 そして、立ち上がった。

 

 速くも、遅くもない。

 歩く、ただそれだけの速さ。

 

 影は、動かない。

 視線だけが、重くなる。

 

 一歩、前に出る。

 

 その瞬間、

 地面の圧が、少しだけ抜けた。

 

 ――気づく。

 

 止まったから、測られた。

 

 動いたから、終わったわけじゃない。

 

 “迷わない動き”を、

 見せる必要があった。

 

 それだけだ。

 

 横に、並ぶ気配。

 

「覚えろ」

 

「……うん」

 

「森は、答えを欲しがらない」

 

 答え。

 正解。

 

 そういうものじゃない。

 

「動き方だけを見る」

 

 黙って、歩く。

 

 怖さは、消えない。

 

 だが、

 さっきより、形が分かる。

 

 影は、少しずつ遠ざかる。

 

 完全には、消えない。

 

 保留。

 

 通すかどうか、

 決めていない目。

 

 背中に残るそれを感じながら、

 思う。

 

 助かった、とは言えない。

 

 失敗したままでも、終わらない。

 

 それを知っただけで、

 胸の奥が、少し軽くなった。

 

 歩く。

 止まらない。

 

 それが、

 今できる、唯一の答えだった。

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