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処刑された7歳の俺、天使と悪魔の混血だったので全属性が目覚めました 〜禁忌の子は魔の森で世界に選ばれる〜  作者: ぴすまる
第二章:魔の森・修練編

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第28話

 森の空気が、少し変わった。

 はっきりした違いじゃない。

 冷えたわけでも、匂いが変わったわけでもない。

 ただ、進みやすくなった。

 足元が、急に素直になる。

 枝も、無理に顔の前へ出てこない。


 歩くこと自体は、楽だった。

 それが、逆に気持ち悪い。



「……さっきより……」



 レイは、歩きながら小さく言った。



「……いま……変じゃない?」



 グラドは、すぐには答えなかった。

 数歩分、間を空けてから言う。



「気づいたなら、まだ大丈夫だ」



 大丈夫、という言葉に、安心はなかった。


 少し進むと、視界が開けた。

 森の中なのに、ぽっかりと空間がある。

 円みたいに、木が避けている。

 地面は踏み固められ、草がない。

 何度も、人か獣が通った跡。



「……ここ……」



 言葉が、自然に止まる。

 嫌な感じが、はっきりしていた。



「通り道だ」


「昔のな」



 グラドは、空間の端で足を止めた。



「今は、残りかすだ」



 残りかす。

 それが、妙にしっくりきた。


 人が集まった場所。

 通った場所。

 戻らなかった場所。


 レイは、喉が渇くのを感じた。

 水筒に手を伸ばしかけて、やめる。

 今、飲んだら落ち着く。

 落ち着いたら、判断が遅れる気がした。



「二つ、ある」



 グラドが言った。


 視線の先。

 空間の奥から、道のようなものが分かれている。


 右は、細い。

 だが、踏み跡が新しい。


 左は、広い。

 だが、途中で途切れている。



「……どっち……」



 聞かれているのは、分かっていた。



「……選ぶの……」


「そうだ」



 即答だった。

 助言はない。

 正解もない。


 レイは、立ち尽くす。


 右。

 新しい足跡。

 人か、獣か。

 どちらにしても、最近通った。


 追われていることを思い出す。

 狩人。

 包囲。

 三日。


 ――右は、近い。


 左。

 広いが、途中で消える。

 行き止まりかもしれない。

 戻れないかもしれない。

 でも、今は誰も通っていない。


 レイは、頭が少し痛くなった。



「……どっちが……森、っぽい……」



 気づいたときには、口に出ていた。


 グラドは、答えない。

 代わりに、少し距離を取った。

 選べ、ということだ。


 レイは、目を閉じた。

 深呼吸は、しない。

 落ち着くと、考えすぎる。


 右を見る。

 足跡。

 新しい。


 左を見る。

 静か。

 何も言わない。


 森は、どちらも否定していない。

 それが、一番いやだった。



「……右は……」



 声が、少し震えた。



「……安全そう……」



 言ってから、違うと思った。



「……左は……いや……」



 これも、違う。


 レイは、目を開けた。



「……左……」



 理由は、きれいじゃない。



「……いま……誰も……いない……」


「……それだけ……」



 グラドは、少しだけ目を細めた。

 評価かどうかは、分からない。



「行け」



 短い。


 レイは、左へ踏み出した。


 一歩目は、何も起きない。

 二歩目も。


 三歩目で、空気が変わった。

 重くなる。

 足元が、また言うことを聞かなくなる。


 後ろを見る。

 空間が、遠い。

 戻れそうで、戻れない距離。



「……戻れ……ない……?」



「戻ろうと思えば、な」



 グラドの声は、淡々としている。



「だが、今戻れば、次は通さない」



 選択は、一回。


 レイは、唇を噛んだ。



「……最初から……これ……?」



「違う」



 グラドは言う。



「ここは、“選んだあとの歩き方”を見る」



 胸の奥が、ぎゅっとなる。


 選ぶだけじゃ、足りない。

 選んだあとに、どう進むか。

 それを、見られている。


 レイは、前を向いた。


 怖い。

 でも、後ろに行く理由は、もうない。


 一歩。

 また一歩。


 森は、何も言わない。

 だが、足元は確実に反応している。


 右を選んだら、どうなっていたか。

 それは、もう分からない。


 分からないまま進む。

 それが、選んだ結果だ。


 レイは、思った。


 ――逃げるより、

 こっちのほうが、

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