第2話
歩いているうちに、
どれくらい時間がたったのか、分からなくなった。
森の中は、空が見えない。
枝と葉が、上から重なっている。
明るさは、ある。
でも、昼なのか夕方なのか、はっきりしない。
足が、重い。
最初は、冷たい水のせいだと思っていた。
でも、違う。
だんだん、力が抜けていく感じ。
お腹が、きゅっと鳴った。
音がした瞬間、恥ずかしくなる。
誰もいないのに。
腹が、減っている。
考えなくても、分かる。
朝から、何も食べていない。
誕生日だったはずなのに。
パンくらいは、出ると思っていた。
でも、処刑台には、何もなかった。
歩きながら、地面を見る。
木の根。
落ち葉。
小さな虫。
食べられるかどうかは、分からない。
口に入れるのが、怖い。
森は、静かだ。
でも、完全に静かじゃない。
どこかで、音がする。
がさ、とか。
ぱき、とか。
自分の足音が、
やけに大きく聞こえる。
止まる。
耳を、澄ます。
何も、出てこない。
また、歩く。
その繰り返し。
腹が、また鳴る。
さっきより、大きい。
胸の奥が、少しむかむかする。
空っぽすぎて、気持ち悪い。
木のそばに、
生えているきのこを見つけた。
白い。
丸い。
見たことが、ない。
しゃがみ込んで、しばらく見る。
触ってみる。
冷たい。
やわらかい。
――食べたら、どうなる。
死ぬかもしれない。
でも、
何も食べなかったら、どうなる。
その考えは、
最後まで続かなかった。
結局、立ち上がる。
まだ、早い。
そう思った。
川の音が、遠くなっている。
どっちから来たのか、もう分からない。
喉が、また渇く。
唇を、舐める。
味は、ない。
歩くのをやめて、
木に背中を預けた。
そのまま、ずるっと座る。
地面は、冷たい。
でも、立っているより楽だ。
膝を抱える。
小さい。
自分の体が、
思っていたより、ずっと。
そのとき、
また背中が、ぞわっとした。
今度は、はっきり。
肩の奥が、むずむずする。
広がる感じ。
「……やだ」
小さく、声が出た。
何かが、
出てきそうな気がした。
理由は、分からない。
肩を、すくめる。
背中を、丸める。
しばらくすると、
その感じは、また引いた。
代わりに、
どっと疲れが出る。
まぶたが、重い。
寝たら、だめだと思った。
でも、理由は、分からない。
森の中で眠るのは、危ない。
たぶん。
でも、体が言うことを聞かない。
少しだけ。
少しだけなら。
目を、閉じる。
すぐに、意識が落ちた。
夢は、なかった。
気づいたとき、
寒さで目が覚めた。
体が、震えている。
森の色が、変わっていた。
暗い。
夕方か、夜か。
腹は、相変わらず空っぽだ。
でも、生きている。
それだけで、
少しだけ不思議だった。
少年は、また立ち上がる。
腹を押さえながら、
それでも、歩くしかなかった。




