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処刑された7歳の俺、天使と悪魔の混血だったので全属性が目覚めました 〜禁忌の子は魔の森で世界に選ばれる〜  作者: ぴすまる
第二章:魔の森・修練編

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第26話

 森の中は、暗かった。

 さっきまでと、何かが違う。


 はっきりとは言えない。

 ただ、背中に残る感覚がある。


 夜ではない。

 けれど、光が入らない。


 木々の葉が重なり、

 上を見ても、空は見えなかった。


 どこかで風が動いている気配はあるのに、

 肌には触れない。


 歩きながら、

 足音だけが聞こえている。


 土を踏む音。

 枝を避けるときの、服が擦れる音。


 それ以外が、少ない。


「……追ってこないな」


 ぽつりと、声が落ちた。


 グラドは前を歩いたまま、振り返らない。


「追われているときほど、

 森は静かじゃない」


「じゃあ……」


 言葉が、途切れる。


「今は、見ているだけだ」


 それだけが返ってきた。


 喉の奥が、少し乾く。


 水袋を揺らす。

 音は、小さい。


 昨日拾った木の実は、もうない。


 ただ、固くて、

 噛むのに時間がかかった。


 腹が、重い。


 森は、ゆるやかに続いている。

 上りでも下りでもない。


 同じような景色が、

 何度も重なる。


 歩いているはずなのに、

 足が前に出るだけだった。


「……ここ、前も通った?」


 グラドは、少しだけ歩幅を落とした。


「似ているだけだ」


「……ほんとに?」


 返事はない。


 足元を見る。

 足跡は、残っていない。


 踏んだはずの場所が、

 形を失っている。


「森は、道を覚えさせない」


 低い声が、響く。


「覚えられると、

 戻れるからな」


 胸の奥が、沈む。


 しばらく歩くと、

 足が重くなる。


 立ち止まりそうになるたび、

 背中が冷えた。


「……休まないの?」


「まだだ」


 即答だった。


 枝が折れる音がした。

 一度だけ。


 気配が、残る。


 後ろでも、

 前でもない。


「……森ってさ」


 言葉が、ゆっくり出る。


「生き物なんだよな」


「そう考えた方が、楽だ」


 それだけ。


 歩くうちに、

 地面の感触が変わった。


 土が固くなり、

 音がはっきりする。


 石が、増えている。


「……人、来てた?」


「昔はな」


「今は、あまり来ない」


 腕を、掴む。


 視界の端で、

 何かが動いた。


 足が、止まりかける。


 そのまま、進む。


 姿は、見えない。

 気配だけがある。


「……森は、追わないな」


 同じ言葉が、落ちる。


「逃げる必要がないからだ」


「どこに行くか、

 もう決まっている」


「……どこに?」


 答えは、ない。


 前だけが、動く。


 森は、何もしてこない。


 それでも、

 道は、少しずつ狭くなる。


 足を、止めずに、

 進み続けた。

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