第25話
歩いている。
止まってはいない。
同じような木。
同じような影。
さっき通った気がする場所を、また見ている気がする。
レイは、首を傾げた。
「……戻ってない?」
グラドは、すぐには答えなかった。
足元を見てから、前を見る。
「戻ってはいない」
「だが、近いところを回っている」
歩幅を揃えすぎたのか。
慎重になりすぎたのか。
足が、わずかに遅れる。
地面は、普通だ。
罠みたいなものは、見えない。
レイは、足を出す前に、一拍置く。
一瞬。
ほんの一瞬。
「……さっきさ」
前を向いたまま、聞く。
「考えないほうが、よかった?」
グラドは、歩きながら答えた。
「考えろ」
「だが、止まるな」
レイは、唇を噛んだ。
枝が、肩に当たった。
避けられたはずの位置だった。
「っ……」
腹が、鳴った。
低い音。
レイは、背中を丸める。
足元の石を避ける。
次の一歩が、遅れる。
枝が視界に入る。
間に合わない。
肩をかすめる。
服が、少し引っかかる。
「……遅いな」
グラドが、ぽつりと言った。
「ごめ……」
言いかけて、やめる。
歩く速度を上げようとして、足が前に出ない。
地面が、重い。
「速さを変えるな」
グラドが言う。
「今のまま、進め」
レイは、呼吸を数える。
一、二。
吐く。
また、一、二。
足を出す。
次の足。
森は、静かだった。
音が減っている。
風も、弱い。
「……ねえ」
小さく言う。
「これ、正解?」
グラドは、答えなかった。
足を止めずに進む。
レイも、続く。
肩に、力が入る。
抜こうとして、ずれる。
そうしているうちに、
地面の感触が、少しずつ変わり始めた。




