第22話
昼に近づいているはずなのに、森は暗かった。
木々が光を遮り、地面には影が重なっている。
腹が鳴る。
小さく、はっきりと。
止めようとしても、止まらない。
前を行く背中は、何も言わない。
気づいていないはずはないのに、歩く速さは変わらなかった。
足が重い。
昨日から、まともに食べていない。
木の実を少し。
水を少し。
それだけ。
段差で、つまずいた。
前のめりになり、手をつく。
土が冷たい。
湿っている。
立ち上がろうとして、力が入らない。
「休憩だ」
短い声。
倒木の陰。
風が通らない場所。
座り込む。
息が荒い。
「……おなか、すいた」
気づいたら、口に出ていた。
小さな袋が投げられる。
「噛め」
中は、硬い干し肉。
噛む。
噛む。
噛む。
すぐには、飲み込めない。
味は分からない。
しょっぱいだけ。
それでも、腹の奥が、少しだけ温まる。
「……これ、いつまである?」
「今日で終わりだ」
即答。
「……明日は?」
「ない」
手が止まる。
「……どうするの」
「探す」
「見つからなかったら?」
少しの間。
「腹を空かせる」
冗談ではなかった。
残りを見る。
小さい。
腹が鳴る。
「……食べなかったら」
ふと、思いつく。
「強くなれる?」
「ならない」
間を置かない。
「弱くなるだけだ」
それ以上は、言わない。
休憩は短い。
立ち上がると、足が痺れている。
歩き出すと、ふらつく。
森は静かだ。
だが、近い。
「……見てる?」
「見ている」
「これも?」
「含めてだ」
足が、少し重くなる。
前を見る。
一定の速さの背中。
木の根元に、黒い実。
「……食べられる?」
「触るな」
即答。
「毒だ」
手を引っ込める。
腹が鳴る。
それでも、歩く。
止まらない。
森は、答えを出さない。
どこかで、風が動く。
水の音が、遠くにある。
顔を上げる。
それだけで、足が、もう一歩出た。




