第13話
進み方を変えてから、しばらくは何も起きなかった。
森は静かで、風も弱い。
足元も、さっきより歩きやすい。
足が止まる。
理由は、はっきりしない。
ただ、前に出したくなかった。
前方。
木の根が、地面を這っている。
避けるほどでもない。
踏めそうにも見える。
少し、間が空く。
右にずれるか。
そのまま行くか。
一歩、右へ。
沈む。
「っ――」
浅い。
だが、ぬかるんでいる。
引き抜こうとして、力を入れる。
ずる、と音がして、さらに沈む。
「動くな」
すぐ後ろから、声。
止まる。
足首まで、泥。
冷たい。
「……聞いてたのに」
「聞いたな」
淡々。
「だが、合わせてない」
「……ちがい、あるの?」
「ある」
横に回る足音。
「森は、答えを出さない。
合ってるかどうかも、言わない」
杖が、別の場所を叩く。
乾いた音。
「こっちは、踏めた」
視線を向ける。
見た目は、ほとんど同じ。
「じゃあ……」
「比べるな」
すぐに遮られる。
「考えるな、でもない。
ただ――急ぐな」
少しだけ、手が伸びる。
「抜く」
「……」
「一気に来るぞ」
うなずく。
「せーの」
引き上げられる。
ぬる、と音を立てて足が抜けた。
反動で、後ろへよろける。
転ばない。
足首が冷えている。
感覚が、鈍い。
「怪我はない」
短い確認。
「だが、覚えとけ」
足を見る。
「さっきのは、間違い?」
「いいや」
首が、わずかに動く。
「外しただけだ」
その言葉が残る。
「森は、正解を置かない」
歩き出しながら。
「合わせ続けるか、外し続けるか。
それだけだ」
少し遅れて、歩き出す。
足元が、重い。
それでも、地面はある。
森は静かだ。
何も言わない。
泥のついた靴を見る。
歩幅を、少し落とす。
それで、進めている。




