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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第五章:禁忌存在編

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第141話

 最初に沈黙したのは、天界だった。


 報告は、すでに出揃っている。

 定義案の履歴。

 修正記録。

 適用例と、適用不能例。


 どれも、間違っていない。

 どれも、正しい手続きを踏んでいる。


 それでも、結論だけが出なかった。


「説明できない」


 その言葉が、

 報告書のあちこちに残っている。


 原因不明ではない。

 異常でもない。

 違反も、逸脱も確認されていない。


 ただ、想定通りに進まない。


 天界は、それを破綻とは呼ばなかった。

 まだ、呼べなかった。


 地上では、別の沈黙が広がっていた。


 判断を待つ者。

 判断を避ける者。

 判断そのものを、先送りにし続ける者。


 誰もが慎重だった。

 誰もが正しかった。


 だからこそ、誰も決められなかった。


「今は様子を見るべきだ」

「判断材料が足りない」

「責任の所在を整理する必要がある」


 言葉は穏やかで、

 理屈も整っている。


 だが、時間だけが過ぎていく。


 魔界は、その様子を静かに見ていた。


 介入はしない。

 意見も出さない。


 ただ、

 一つの感覚だけを共有している。


 ――決められないのではない。

 ――決めたくないのだ。


 三界は、

 それぞれ別の理由で、

 同じ地点に立っていた。


 このままでは、定義は持たない。


 禁忌という枠は、

 守るためのものだった。


 だが今は、

 判断を避けるための器になっている。


 誰もが、それを理解している。


 彼を放置すれば、

 運用は歪み続ける。


 だが、彼を決めれば、

 取り返しがつかない。


 その矛盾を、

 誰か一人に

 押し付けることはできない。


 だから、破綻は共有された。


 明文化されないまま。

 宣言もされないまま。


「このままでは無理だ」


 その感覚だけが、

 三界に、

 静かに広がっていく。


 引き返す選択肢は、もう残っていない。


 定義は戻らない。

 言葉は足りない。


 時間だけが、

 次を要求している。


 次に来るのは、

 調整でも、

 修正でもない。


 最終判断だ。


 誰が下すのか。

 どう下すのか。


 まだ、決まっていない。


 ただ一つ、確かなことがあった。


 問題は、

 彼が何であるかではない。


 何でないまま、

 置いておけないことだった。

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