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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第五章:禁忌存在編

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第139話

 言葉は、増えていた。

 報告書の枚数。

 注釈の行数。

 補足説明の段落。


 どれも、以前より丁寧だった。

 曖昧さを残さないため。

 誤解を避けるため。

 誰かを傷つけないため。


 理由は、いつも正しい。

 だが、読めば読むほど、何が起きているのか分からなくなる。


「禁忌存在」


 その言葉は、最初、明確だった。

 特定の条件。

 特定の影響。

 特定の対応。


 今は、そうではない。


 禁忌に「準ずる」。

 禁忌に「類似する」。

 禁忌と「同系統と考えられる」。


 修飾語が、本体を覆い隠す。


 管理不能。

 例外。

 未定義領域。


 どれも、説明のために使われている。

 だが実際には、説明できていないことを示す印だった。


 天界の会議では、用語の整理が議題に上がる。


「この言い回しだと、誤解を招くのでは?」

「こちらの表現のほうが、角が立たない」

「断定は避けたほうが安全です」


 安全。

 その言葉が、何度も繰り返される。


 誰も、間違ったことは言っていない。

 ただ、誰も現実に触れていない。


 地上でも、説明が会話を占領する。

 起きたことよりも、起きなかった理由。

 行動よりも、行動しなかった判断。


 話しているうちに、最初の出来事が、どこかへ消えていく。


 レイに関する言葉も、同じだった。


 彼は、何もしていない。

 だが、何もしていないことを説明するための言葉が、増え続ける。


「直接的関与は確認されていないが」

「影響を完全に否定することはできず」

「現時点では評価不能」


 否定でも肯定でもない文章が、彼の周囲に積み重なる。

 それは、守っているようで、囲っている。


 言葉が、距離を作る。


 誰かが、小さく漏らす。


「結局、彼は何なんだ?」


 その問いに、即答は返らない。


 禁忌ではない。

 だが、無関係とも言い切れない。

 管理対象ではない。

 だが、放置もできない。


 言葉を選べば選ぶほど、答えから遠ざかる。


 説明は増えている。

 理解は減っている。


 その矛盾を、誰も指摘しない。

 指摘すれば、別の言葉が必要になるからだ。


 レイは、少し離れた場所で、そのやり取りを聞いている。


 名前は出る。

 説明もされる。

 だが、彼自身の位置は、どこにも書かれていない。


 言葉が追いつかない。


 現実が早いのではない。

 言葉が、自分たちの枠に、足を取られているだけだ。


 それでも、言葉を増やすしかない。

 減らせば、決めなければならなくなる。


 決めることを避けたまま、

 世界は、言葉の中で足踏みを続けていた。

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