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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第五章:禁忌存在編

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第134話

 天界の文書は、

 以前よりも読みやすくなっていた。


 段落は整理され、

 語句は統一され、

 曖昧だった部分には、

 注釈が添えられている。


 誰が見ても、

 前より完成度が高い。


 それが、

 違和感の正体だった。


「第一条に、

 但し書きを追加します」


 執務卓の向こうで、

 書記官が淡々と告げる。


 誰も反対しない。


 追加されたのは、

 例外条件だった。


 ただし――

 ただし――

 ただし――


 条件が増えるたび、

 文書は静かに

 厚みを増していく。


「これで、

 先日の事例は拾えるな」

「完全ではないが、

 説明は通る」


 “説明できる”という言葉が、

 繰り返された。


 真実ではない。

 整合でもない。


 通過できる、

 という意味だった。


 修正後の定義案では、

 禁忌存在は

 一つの状態ではなく、


 複数の条件が重なったときに現れる

 傾向として扱われていた。


 意図の有無。

 周囲への影響。

 観測値の変動。

 因果の連続性の乱れ。


 どれか一つでは足りない。


 だが、

 二つ以上が

 同時に確認された場合、


「類似事例」として

 記録される。


「……扱いやすくなったな」


 誰かが、

 半ば独り言のように言った。


 誰も反応しなかった。


 便利とは、

 本来、

 迷わずに使えるという意味だ。


 だが、

 今の定義は違う。


 現実を収めるために、

 形を変え続けているだけだった。


「例外処理は?」

「付属文書に回しました」

「頻出するので、

 分けたほうが整理しやすい」


 例外が、

 例外でなくなる。


 それでも、

 文書は整っていく。


 ページ番号が振られ、

 索引が付けられ、

 参照先が増えていく。


 完成に近づくほど、

 机上の世界は

 閉じていった。


「……距離が、

 開いてきているな」


 誰かが、

 ぽつりと言った。


 何との距離かは、

 言われなかった。


 定義と出来事。

 観測と現象。

 言葉と、

 起きていること。


 どれもが、

 わずかに

 噛み合わなくなっている。


「だが、

 戻すことはできない」


 年長の者が、

 静かに言う。


「一度、

 定義した以上、

 なかったことにはできない」


 だから、

 修正する。

 だから、

 付け足す。

 だから、

 整える。


 破綻を認めるより、

 継ぎ足すほうが、

 穏やかだった。


 修正版定義案は、

 その日のうちに

 仮承認された。


 正式決定ではない。

 だが、

 現場では

 即日適用される。


 誰も、

「間違っている」とは

 言わなかった。


 ただ、

「足りない」と

 言い続けただけだ。


 文書が閉じられる。


 その瞬間、

 どこにも記されなかった部分で、

 現実はまた一つ、

 定義から外れていた。


 それに気づく者は、

 もう、

 数えられるほどしか

 いなかった。

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