第133話
魔界の会合は、いつも時間が曖昧だった。
始まりを告げる鐘も、
終わりを区切る合図もない。
ただ、
集まる者が集まり、
話すべきことが尽きたところで、
自然に散る。
この日も、
中央の石卓のまわりに、
数名が腰を下ろしていた。
椅子の位置は決まっていない。
視線も、
自然に交わるだけだった。
卓上には、
天界から回された記録が置かれている。
「……また、因果を置いたか」
誰かが、
書類を一枚めくりながら言った。
声に呆れはない。
確認に近い調子だった。
「置かざるを得なかったんだろう」
「説明が欲しかった」
短いやり取りのあと、
沈黙が戻る。
記録には、
事故の概要と、
整理された影響区分が並んでいる。
直接ではない。
だが、
無関係とも言い切れない。
そう書かれているだけだった。
「彼は、何か決めたのか?」
問いは、
誰かを責める調子ではなかった。
単に、
事実を確かめるためのものだった。
「いいや」
「動いていない」
「選んでもいない」
答えは、
すぐに揃う。
だが、
それ以上は続かなかった。
石卓の表面に、
沈黙が落ちる。
「では、何が動いた」
今度は、
言い切らなかった。
「……世界のほうだな」
そう言った者は、
書類から目を離さなかった。
「定義を当てはめた」
「説明をつくった」
「空白を残さなかった」
誰も肯定しない。
だが、
否定もしなかった。
魔界は、
彼を見ていないわけではない。
ただ、
測ってはいない。
分類も、
評価も、
今は行っていない。
それらは本来、
決める側が行う作業だった。
「決めていないのは、彼じゃない」
別の者が、
静かに言う。
「決めきれないものを、
外から囲っているだけだ」
その言葉も、
結論ではなかった。
整理に近い置き方だった。
天界の文書は、
整いつつある。
条件が増え、
例外が分けられ、
因果が、
置きやすい形に並べられていく。
地上もまた、
慎重さという名の動きで満たされている。
それらすべてが、
彼自身の選択とは噛み合わないまま、
進んでいた。
「止めるか?」
誰かが言った。
問いは軽く、
可能性として置かれただけだった。
「干渉すれば、
それ自体が定義になる」
返答は、
短かった。
魔界は、
決定を好まない。
均衡を崩すほどの理由は、
まだ見えていない。
「彼は、拒んでいない」
「だが、受け取ってもいない」
その状態は、
魔界にとっては、
未処理に過ぎなかった。
「ならば、我々も同じだ」
それで、
話は終わった。
会合は、
それ以上深まらなかった。
議決も、
命令も、
通達もない。
ただ、
共有しきれない感覚だけが残る。
――彼は、
決めていない側にいる。
――だが、
その状態が、
長く許される保証はない。
石卓の上に残された書類は、
誰も持ち帰らなかった。
今は、
置いておくだけでよかった。
魔界は、
今日も選ばない。
だが、
それが
選択ではないと、
言い切れる者も、
もう多くはなかった。




