第11話
第二章:魔の森・修練編が始まります。
第一章から続けてお読みの方も、
ここからの方も、
物語を楽しんでいただければ幸いです。
森に入ってから、数えきれないくらい歩いた。
どこまで来たのかは、分からない。
足元を見ながら、進む。
木の根。
落ち葉。
濡れた土。
どれも、同じに見える。
でも、踏んだ感じは少しずつ違う。
後ろで、枝を踏む音がした。
距離は、近くも遠くもない。
「疲れたか」
前を向いたまま、聞いてくる。
「……ちょっと」
「足が、重い」
「そうか」
それだけだった。
息を整えながら歩く。
胸が、少しだけ苦しい。
止まったら、考えてしまう。
――なんで、歩いてるんだろう。
処刑台。
縄の感触。
下から見上げた、人の顔。
身体が、固くなる。
「……ねえ」
「なんだ」
「どこまで、行くの」
しばらく、返事がない。
「決めていない」
「え」
「森が決める」
「森って……」
「生き物みたいなものだ」
それ以上は、言わない。
木を見る。
太い幹。
絡まった蔦。
「……じゃあ」
「森が、いやだって言ったら?」
「終わりだ」
「戻れるの」
「戻れればな」
「戻れないことも、ある?」
「ある」
歩きながら、靴の中で指を動かす。
ちゃんと、ある。
――生きてる。
「……グラドは」
「なんで、森にいるの」
長い沈黙。
風が吹いて、葉が揺れる。
遠くで、何かが鳴いた。
「理由は、いくつかある」
「その中で、一番簡単なのは」
足が止まる。
「戻れなかったからだ」
また、歩き出す。
森は、静かだった。
足元で、小さな虫が動く。
踏まないように、歩幅を変える。
森は、何も言わない。
ただ、奥へ続いている。
前を見る。
――ちゃんと、歩こう。
足を出した。




