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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第五章:禁忌存在編

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第128話

 天界の会議室は、いつもより静かだった。


 沈黙が重いわけではない。

 誰もが、言葉を選び過ぎていた。


「では――」


 記録官が一度、羽根を整える。


「本件は、試験的適用とする」


 反論は出なかった。

 賛同もない。


 机上に置かれているのは、一枚の文書だった。

 厚くもない。


 まだ正式な裁定文ではなく、

 「定義案」とだけ記されている。


 禁忌存在。

 管理不能。

 例外処理対象。


 どれも、確定した言葉ではない。

 だが、使われ始めていた。


「対象は、地上界南部。

 小規模な現象です」


 別の者が補足する。


 魔力の偏り。

 一時的な干渉。

 再現性なし。


 過去にも、何度もあった類の報告だった。

 本来なら、記録に残して終わる。


 ただ一つ違うのは、

 文末に付け加えられた一行だった。


 ――禁忌存在に類する可能性あり。


 誰が書いたのかは分からない。

 名は、記されていなかった。


「関連は?」


「ありません」


 即答だった。


 現象の発生地点に、

 その少年はいない。


 近くにもいない。

 関与の痕跡もない。


 それでも、その一行は消されなかった。


「今回は、適用例として妥当かと」


 言い方は慎重だった。

 提案、という形を取っている。


「第一号、ということか」


 誰かが呟く。


 数字が付いた瞬間、

 空気が、少し変わった。


 第一。

 最初。

 例。


 前例がない、という事実が、

 いつの間にか理由に置き換わっていく。


「軽い事案から、という判断ですね」


 確認するような声が落ちる。


 否定は出なかった。


 誰も「彼」の名を口にしない。

 だが、全員が同じ方向を避けているのは、分かった。


「本件は、監視対象に指定」

「記録上の注釈のみ」

「介入は不要」


 決定事項は、それだけだった。


 会議は、予定より早く終わった。


 議事録は整っている。

 論理の飛躍も、表には出ていない。


 ただ、文書の余白が増えた。


 禁忌存在に類する可能性。

 定義案適用例第一号。


 誰かが、ためらうように言った。


「……広がりませんよね」


 問いかけではなかった。

 確認でもない。


「広がるかどうかは、

 今後次第でしょう」


 答えになっていない答えが返る。


 天界は、いつもそうだった。

 断定を避け、

 判断を先送りし、

 その代わりに言葉を置く。


 会議室を出ると、

 白い回廊は、変わらず続いていた。


 何かが壊れた気配はない。

 何かが起きたわけでもない。


 ただ、

 定義が一つ、

 場所を覚えた。


 それが誰に向かって伸びていくのか、

 まだ、誰も言葉にしていなかった。

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