第127話
世界は、準備に入っていた。
宣言でも、決議でもない。
ただ、空気が変わった。
天界では、会議の間隔が短くなった。
結論は出ていない。
だが、出さなければならない、という前提だけが共有されている。
管理不能。
禁忌存在。
言葉は、すでに揃っていた。
あとは、どこまでを一つの枠に押し込むか。
それだけの作業のように、扱われていた。
地上では、沈黙が増えた。
話題にすること自体が、避けられるようになる。
名前を出すと、何かを決めてしまいそうだった。
守る、という言葉も、簡単には使われなくなる。
守るとは、対象を定めることだ。
守る側に立った瞬間、
守られる側は、そう扱われる存在になる。
それを分かっている者ほど、
何も言えなくなっていった。
魔界では、目立った変化はなかった。
結論を急ぐ気配も、定義を整える動きもない。
ただ、境界が薄くなっていることだけは、感じ取られていた。
決める準備をしている世界は、必ず、どこかで歪む。
それを、彼らは知っている。
レイは、そのどこにも立っていない。
裁定の場にも。
議論の中心にも。
立場を示す場所にも。
それでも、視線は、
彼を避けながら、彼を基準にしていた。
何をしたか、ではない。
何を起こしたか、でもない。
どう扱えないか。
それだけが、積み重ねられている。
定義は、本来、理解のためにある。
だが今は、落ち着くために求められていた。
分からないままでいることに、
世界の側が、耐えられなくなっている。
だから、定義しようとしている。
まだ合わない部分があることを、分かっているまま。
一文、足りない。
一条件、多い。
あるいは、前提そのものが、ずれている。
それでも、未完成のまま進める、という選択肢が、
現実味を帯び始めていた。
夜は、静かだった。
何かが起きる兆候はない。
光も。
風も。
境界も。
いつもと変わらない。
ただ、
明日を境に、呼び方が変わるかもしれない。
それだけの予感が、世界に広がっている。
レイは、まだ何も選んでいない。
それでも、世界の方が、先に手を伸ばそうとしていた。




