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禁忌の子レイ  作者: ぴすまる
第五章:禁忌存在編

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133/162

第123話

 天界の記録室は、久しく使われていなかった。

 裁定が減ったわけではない。

 むしろ、逆だ。

 判断は、増え続けている。

 ただ、それらは、言葉にされなくなっていた。


 未整理のまま、保留として積み上げられ、

 やがて、記録されないものになっていく。


 禁忌存在――

 その呼び名が確定してから、

 初めて、文書化の指示が下りた。


「条件を定めよ」


 それは、管理のためではない。

 裁くためでもない。

 定義するためだ。


 白い頁が、広げられる。

 筆が置かれ、最初の一文が記された。


 ――当該存在は、

 いずれの世界にも、明確に属さない。


 問題はなかった。

 むしろ、誰もが受け入れた文言だった。


 次の行。


 ――既存の分類体系において、

 能力・起源・目的のいずれもが、特定不能である。


 整っている。

 記録官は、淡々と、続きを記す。


 ――自発的な敵対行動は、確認されていない。

 ――意図的な影響行使も、観測されていない。


 安全を、保証する文ではない。

 ただ、並べられた事実だ。


 頁は、静かに、埋まっていく。


 ――周囲への影響は、

 存在そのものによって、生じている可能性がある。


 ここで、わずかな間が入った。

 手が、止まる。


 否定ではない。

 迷いでもない。

 違和感だった。


 存在そのものによって、生じる影響。

 それは、定義なのか。

 それとも、言い換えなのか。


 だが、筆は、再び動く。


 ――よって当該存在は、

 通常の裁定対象とはせず、

 例外的存在として、扱うものとする。


 定義案第一号。


 完成した文書は、整いすぎていた。

 条件は揃い、

 論理の抜けもない。


 少なくとも、形式上は。


 それでも、誰も、即座に承認しなかった。

 視線は、同じ一文で、止まっている。


 「存在そのものによって、生じている可能性」


 影響は、確認されていない。

 行動もない。

 意思も、読み取れない。


 それでも、

 影響だけが、在り方に、結びつけられている。


 行為ではなく、存在。


 境界を引くはずの定義が、

 境界を曖昧にしたまま、囲っている。


 その感触に、

 誰もが、気づいていた。


 しかし、修正案は、出なかった。


 この一文を削れば、

 定義は、成立しなくなる。

 だが、残せば、

 何かが、固定される。


 定義案第一号は、

 保留のまま、閉じられた。


 否決ではない。

 採択でもない。

 ただ、使えない。


 それでも、

 文書は、残る。


 誰かが、

 最初に、決めようとした痕跡として。


 その頃、地上のレイは、

 いつもと、変わらない一日を、過ごしていた。


 何も、起きていない。

 何も、していない。


 ただ、

 彼を、定めようとした言葉だけが、

 一歩、先に、置かれていた。

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