幕間
それは、記録にも残らない出来事だった。
王都の外れ。
処刑台の片付けが終わり、
人が引いたあと。
血を洗い流した石畳の上で、
誰かが一枚の木札を拾った。
名前は、刻まれていない。
年齢だけが、
雑に書かれている。
七歳。
「……これ、どうする」
役人のひとりが、
小さく呟く。
返事はなかった。
本来なら、
名と罪が並ぶはずだった。
だが、その札には何もない。
あるのは、
空白だけだ。
禁忌。
それだけで、
十分だった。
「焼却でいいだろ」
別の声が、
そう言った。
誰も異を唱えない。
炉に放り込まれた木札は、
ぱちりと音を立てて燃えた。
文字は、
すぐに読めなくなる。
それで終わり。
終わったはずだった。
だが、その夜。
王都から遠く離れた、
魔の森で、
一本の木が、
軋む音を立てた。
風でも、
獣でもない。
もっと、
古いものの気配。
「……落ちたか」
誰かが、
低く呟いた。
森は答えない。
ただ、
霧を濃くする。
人の世界では、
ひとり分の命が、
消えたことになっている。
だが、森の奥では、
まだ小さな呼吸が、
続いていた。
名を呼ばれないまま。
裁きから、
零れ落ちたまま。
世界は、
まだ気づいていない。
この誤差が、
いずれ、
どこまで広がるのかを。
第一章、完結しました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
明日より
第二章:魔の森・修練編
が始まります。
引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。




