第118話
魔界には、会議室がない。
正確には、集まる場所はある。
だが、結論を出すための場ではなかった。
黒い岩盤の奥。
裂け目に近い場所。
空気は重く、
光は必要最低限しか存在しない。
集まる者たちに、席順はない。
発言の順も、決められていない。
誰が上か。
誰が下か。
それを定める理由がない。
「話題は?」
短く、問いが落ちる。
「地上で、線が引かれ始めた」
「天界では、分類が進んでいる」
報告は淡々としていた。
良いとも、悪いとも言わない。
事実だけが、そこに置かれる。
「例外処理、という言葉が出ているらしい」
「……便利だな」
低い声が、わずかに揺れた。
笑いとも、否定ともつかない。
「で、どうする」
問いは宙に浮いたまま、落ちてこない。
誰も、すぐには拾わない。
裂け目の近くに立つ者が、
ようやく口を開く。
姿は曖昧で、
輪郭が定まらない。
「何もしない」
それだけだった。
「利用もしない」
「保護もしない」
「勧誘もしない」
否定が、静かに並ぶ。
「それでいいのか」
別の声が問う。
「興味はあるんだろう」
否定はされなかった。
あの存在は、
魔界の理屈にも当てはまらない。
裂け目の側の者は、
少し間を置く。
「興味があることと、
決めることは、別だ」
それ以上は言わない。
「名前を与えれば、輪郭ができる」
「輪郭ができれば、扱いが決まる」
言葉が、空間に残る。
反論は出ない。
「世界は、決めたがっているな」
「……そうだな」
それにも、深追いはない。
「禁忌、という呼び名が
使われるかもしれない」
「呼び名が増えるだけだ」
裂け目が、微かに鳴る。
広がりもしなければ、
閉じもしない。
「それで、十分だ」
誰に向けた言葉でもなかった。
魔界は、結論を出さない。
正確には、
結論に触れない。
名付けない。
定めない。
その態度だけが、
他と交わらないまま、
そこに残った。




