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幕章
世界は、静かだった。
何も起きていない。
少なくとも、
壊れたものは、目に見える範囲にはない。
天界では、光が反射する白い回廊に誰もいない。
影だけが長く伸び、風の音も途切れていた。
地上では、布で覆われた焦げ跡の床が、わずかに冷えている。
魔界の裂け目も、黒い岩の奥で、ただ影になっていた。
どれも、正しい。
どれも、急いでいない。
だからこそ、判断は、
置かれたままにされた。
名前も、
意味も、
与えられなかった。
世界は、光を揺らし、風を止めた。
床の冷たさが、足裏に触れる。
扉は閉じられ、開くことはない。
何も起きなかった、とは言えない。
ただ、
起こさない、という選択があった。
世界は、
それを、
裁定と呼ばなかった。




