第114話
地上では、
片づけが続いていた。
壊れた建物。
使われなかった資材。
戻らなかった人数。
監督官は、
帳簿を閉じた。
数字は、頭の中に残ったままだった。
「……ここまでです」
声に、うなずきは返らない。
誰かが、守ろうとした。
誰かが、止めようとした。
その事実だけが、並んでいる。
「あの子の判断は?」
質問は出た。
名前は、出なかった。
「聞いていない」
「聞けないーーが正しいな」
訂正だけが、残る。
善意は、記録された。
だが、引き取る場所はなかった。
帳簿は、閉じられた。
結論の欄は、空いたままだ。
*
魔界では、
撤退が終わっていた。
痕跡は消され、
交わされかけた契約も破棄されている。
「惜しかったな」
誰かが、言う。
別の誰かが、鼻で笑った。
「違う」
ヴァルは、刃を布で拭きながら答えた。
「早すぎただけだ」
「次は?」
「次を考える段階じゃない」
それ以上、話は続かなかった。
奪わなかった。
だが、誇る理由もない。
判断が、正しかったのかどうか。
その問いは、置かれたままだ。
*
天界では、
会議が解散していた。
裁定は、出た。
だが、それを喜ぶ声はない。
「判断しなかった」
「先に送っただけだ」
言葉は出たが、結論にはならなかった。
セラフィエルは、記録庫の前で立ち止まる。
空白の頁。
埋められなかった欄。
名がないこと。
分類されないこと。
それが、最善だったのかどうか。
考える理由は、残っている。
答えは、置かれなかった。
*
地上も、魔界も、天界も。
何かを得たとも言えない。
何かを失ったとも言い切れない。
動かなかった。
だが、元の位置でもない。
誰も、満足していない。
それでも、やり直しは宣言されなかった。
世界は、少しだけ間を空けたまま、
次の動きを待っている。




