幕章
処刑台に、剣が振り下ろされた。
それだけのことだった。
本来なら、そこで終わるはずだった。
血が落ち、名が消え、記録が一つ減る。
七年分の呼吸が止まり、世界は静かになる。
だが――
その瞬間、揺れが走った。
三層に分かたれた世界の、境目。
人の理が及ばぬ、空白の領域で、
わずかな歪みが生じる。
それは光ではなく、闇でもない。
どちらかに寄ることを拒む、
曖昧な震え。
「……まだ、早い」
誰の声とも知れない声が、
境界に滲んだ。
怒りでも、慈悲でもない。
ただ、事実をなぞるような響き。
「裁くには、まだ足りない」
処刑台の下で、人々は気づかない。
剣を振るった者も、
祈りを捧げた者も。
世界のどこかで、
帳簿が一行ずれたことに。
禁忌は、消えなかった。
消されなかった。
それは逃げたのではない。
選ばれたのでもない。
――生き延びてしまっただけだ。
そして世界は、それを記録する。
名もない、
ひとつの誤差として。
この先、何が起きるかは分からない。
だが、確かなことが一つある。
あの剣は、
終わりを告げるために
振り下ろされたのではなかった。




